藤沢数希著「『反原発』の不都合な真実」を読んでみた

September 19, 2013 – 12:54 pm

福島第一事故の後、当然のことながら、反原発の主張が主流になった。原子力に関わる本、著作の大部分は反原発の立場をとっている。
私自身、原子力関連の研究所でお世話になった身でありながら、反原発の立場をとるものであり、このブログのなかでも、その立場からささやかながら記事を書いてきた。
こうした反原子力の流れのなかでも、本書「『反原発』の不都合な真実」は原子力推進の立場をとる。「勇気」ある著作といえるのかもしれない。
著者・藤沢数希の名前は、彼の人気ブログ「金融日記」で以前から知っており、原子力開発推進論者であることも承知している。公立の図書館で、この本をみかけ、彼の原子力に関わる主張の全体を見るのも悪くないと思い、この本を手にとってみた次第だ。
以下、本書をななめ読みした感想をメモしておいた。

著者、藤沢数希って誰?: 人気ブログの著者として藤沢数希という名前は知っていた。しかし、その素性については全く知らない。本のカバーには、著者はつぎのように紹介されている:

欧米研究機関にて、計算科学、理論物理学の分野で博士号取得、その後、外資系投資銀行で市場予測、リスク管理、経済分析に従事しながら、言論サイト「アゴラ」に定期寄稿する。著書に『なぜ投資のプロはサルに負けるのか?』『日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門』。

よく分からないが、物理屋くずれの「経済評論家」といったかたのようだ。「藤沢数希」っていうのもペンネームなのかもしれない。

本書の読後感: 本書を「ななめ読み」した感想を一言で述べるとすると、福島第一事故の前の原子力に対する「夢」が繰り返しのべられている、というのが素直な感想だ。

原子力関連研究機関で長年お世話になった私としては、いつも耳にし、自分自身も描いていた「夢」が語られているとの感想を持った。しかし、我々、原子力業界で働いていたものは、こうした「夢」の前提として、決して今回の福島第一のような事故を起こしてはならない、という思いがあった。

福島第一の事故の発生を経験して、とても、本書のような手放しの「原子力開発礼賛」といった気にはなれない。

原発周辺の住民として本書を読むと: このブログのなかで何度も触れているが私の自宅は原子力発電所からわずか2.5Kmの位置にある。原発が福島第一のような事態がおきると、ほぼ確実に、我が家を失うことになる。日本を救う原子力のために、そうしたリスクを負ってくれなんていわれても、「はいそうですか」なんていうわけにはいかない。

原発立地地域について、本書、興味深いことを主張している。

実は、原発の問題点は、経済性でも安全性でもありません。原発の問題点は倫理性なのです。化石燃料による大気汚染や地球温暖化のような問題は、世界中の人たちで負わなければいけませんが、原子力のシビア・アクシデントのリスクは地元住民がほぼ全てを負うのです。その電気は都会で使っているにもかかわらず、です。だから大都市に住む人々は、原発立地県の地元自治体の人々に感謝の気持ちを忘れてはいけません。電気に限らず、都市に必要な水や食料なども、ほとんど全て地方からやってきているのです。核燃料税などにより、そのリスクを引き受けた地元住民に経済的な見返りがあるのは当然なのです。そういった電力会社が納める税金は、電気代に転嫁されます。安価な広い土地がない都市の住民は、電気代を通して原発立地県にお金を払い、そして電気を作ってもらうことにより便利な生活を享受しています。これはWin‐Winの関係で、他の経済活動と何ら変わりのないふつうのことです(pp.114-116)。

福島県にとって、「Win-Winの関係」により何がもたらされたのか、藤沢さん、少しお考えになってみては?なんて地元住民は思ってしまう。いかがだろう?

福島原発事故の被害は巨額ではない?: ひとたび福島第一規模の事故が発生しても、そんなに被害は巨額ではないと主張されているようだ。以下のように記述されている:

・・福島第一原発の事故の被害は、多くの人が思っているほど巨額なものではありません。政府試算によると賠償額は4兆5000億円程度とのことですが、これは単純計算すると放射能漏れ事故で避難した約10万人に一人当たり4500万円であり、過小評価されているとは僕は思っていません。また農林水産省によれば2010年の福島県の農業算出額は年間2450億円ですから、全額補償しても、農産物の風評被害への賠償はそれほど巨額になるとは考えにくいのです。(p.132)

ここに示されている賠償額が正確かどうかは別にして、この記述、地元住民としては驚きを感じてしまう。「一人当たり4500万円をくれてやるんだから十分だろ」と聞こえてしまうのだが・・・。

最後に一言: 本書のあとがきには、「僕はあらゆるバッシングを覚悟してこの本を書きました」とある。確かに、著者の「蛮勇」には感心した。
しかし、本書を読み終えた今、あなたの「蛮勇」には与する気はさらさらないよ、と伝えておきたい。
     


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