「中西リスク学」にみる線量限度(年間1ミリシーベルト)の根拠

May 1, 2014 – 7:54 am

中西準子著の「原発事故と放射線リスク学」(本ブログでは「中西リスク学」と呼んでいる)をゆっくり時間をかけて読んでいるところだ。前回は、「空間線量(率)」について多少調べたことを書いた。
今回は、ICRPが線量限度としている「年間一ミリシーベルト」についてだ。どうも、中西リスク学のこの値についての説明、議論がよく分からない。調べてみようと思っているのだが、今回は、手元に資料もないので「中西リスク学」で書かれていることをメモするのにとどめた。

「年間一ミリシーベルト」の根拠: 「中西リスク学」でその根拠を議論・記述しているところは2箇所ある。ひとつは、「除染の目標値」を議論しているところであり、もうひとつは化学物質のリスクの部分だ。

以下、関連部分を抜粋する。

まず、「除染目標値」とのかかわりの部分:

・・ICRPはこの値(筆者挿入:年間一ミリシーベルトの被ばく線量(実効線量))を線量限度とした理由として二つをあげている。一つは、様々な要因による死亡率、もう一つは自然の放射線量の変動である。第一の理由の方は、時代の流れのなかでやや無理がでてきており、今は、第二の理由が根拠になっているとしていいだろう。
ICRP1990は、「自然放射線強度は、健康に影響を与えているとは思えない。ラドンの影響を除くと、そのレベルは一ミリシーベルト/年程度、さらに、場所による変動も一ミリシーベルト/年は受け入れられるであろう」としている。要するに、一ミリシーベルト/年以上の差があちこちにある。大阪は東京に比べると〇.五ミリシーベルト/年程度高いけれども、大阪は放射線で大変だから行かないとか、土地が安いとはならない。そういう値を、許容できるレベルとしようということである。・・(pp.131-132)

そして、化学物質のリスクとの比較をするところ、具体的には、食品中の放射能濃度の基準を導出した際の根拠が年間一ミリシーベルトからくることとした次の部分だ:

最近のICRP勧告には根拠が書かれていないが、一九九〇年勧告を見ると、その考えかたが書いてある。その根拠として、二つ挙げてあり、一番めは、職業ばくろと同様にリスクの容認性から決める方法となっているが、これは今となっては、意味がないので説明を省く。二番めの理由が重要で、自然放射線被ばくの変動に基づく考え方とある。つまり、自然起源の放射線強度は健康に影響を与えない。ラドン元素の影響を除くと、そのレベルは一ミリシーベルト/年程度で、場所による変動も一ミリシーベルト/年以上ある。場所による変動なら多くの人は受け入れるだろう、これを基準にしようと提起している。この考え方が世界的に認められていき、1ミリシーベルトが受け入れられた。これは、放射線管理におけるVSDと認められているといえるだろう。(p.270)

ここで最後のほうにでてくるVSDというのは、辞書を見ると、virtuarlly safe doseの略語で「実質安全量」ということのようだ。

「一ミリシーベルト」は「健康リスク」とは無関係?: ここでみたふたつの記述は、表現の多少の差はあるものの、共通している。まず、「年間一ミリ―シーベルト」なる値の根拠は放射線の被ばくすることによる「健康リスク」とは無関係としているところだ。

無関係とは言ってない。正確には、「時代の流れのなかでやや無理がでてきて」いる、とか「これは今となっては、意味がない」ということで議論しない。

どうも、私にとっては、このふたつの表現がなにを言っているのか、さっぱりわからない。もし、福島原発事故で、環境が汚染された今となっては、「リスクがどうこう議論してもしょうがない」ということで、このような表現がでてきているなら、おかしな話だ。

考えこんでしまう。

「一ミリシーベルト」は自然放射線の変動内だから?: ICRPの一九九〇年勧告では、一ミリシーベルトの根拠として、ふたつの理由をあげていることを紹介し、「二番目の理由が重要で、自然放射線被ばくの変動に基づく考え方」を採用し、それに基づき「これを基準としようと提起」したと書かれている。

残念ながら、私の手元には一九九〇年勧告がない。しかし、自然放射線の変動内ということで「一ミリシーベルト」なる値が提起されたというのは、私の記憶では事実ではない。放射線の被ばくによる健康影響を過小評価する側からの主張で必ずでてくる「自然起源の放射線強度は健康に影響を与えない」という議論には違和感がある。

すこし、詳しくこのあたりを調べてみなくては、と思った次第。

それにしても、「中西リスク学」というのは、議論の展開が情緒的なところが多いような印象を持ってしまう。私だけか?


  1. 2 Responses to “「中西リスク学」にみる線量限度(年間1ミリシーベルト)の根拠”

  2. 診療放射線技師やってます。
    ICRP1990年勧告は
    http://www.icrp.org/docs/P60_Japanese.pdf
    にあります(PDFファイル:25.8MB)。
    1mSv/yの根拠は本文54―57頁(ファイルの66―69頁)の(186)―(194)にあります。

    By 宇津木 岳士 on Jul 31, 2014

  3. ありがとうございます。
    アイソトープ協会が1990年勧告をPDFにて公開したのは存じ上げています。この記事を書いた後に公開されました。
    わたしも、知人からその旨聞き、早速ダウンロードして活用しております。
    中西準子さんの1ミリシーベルトの見解について、私なりに、「考え中」といったところです。
    愛読感謝です。今後もよろしくお願いします。

    By yama on Jul 31, 2014

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