年金開始年齢と平均余命

October 12, 2015 – 12:38 pm

日経の連載記事、「やさしい経済学 公共政策を考える」で、年金問題が解説されている。執筆者は、小塩隆士・一橋大学経済研究所教授。

この連載記事のうち、10月7日付に興味深い主張を見かけた。早々の年金生活は「モラルハザード」の典型というものだ。年金生活者にとっては耳の痛い話だ。メモしておいた。

小塩隆士・一橋大学経済研究所教授って誰?
解説記事の中身にはいるまえに著者、小塩教授について確認してみた。 「一橋大学経済研究所」の教員紹介には研究歴がつぎのように紹介されている:

公的年金など社会保障や所得分配、再分配政策、教育政策のありかたを中心に研究を進めてきた。特に社会保障については、NBER(全米経済研究所)の国際研究プロジェクト(International Social Security)にも参加し、社会保障制度の高齢者就業への影響などについて国際比較の視点から分析を行っている。

早々の年金生活は「モラルハザード」の典型!
冒頭の連載記事のうち興味深く思ったところを、以下に抜粋・転載する。

高齢になると健康面でもいろいろ問題が出てきて、就業の継続が難しくなります。・・・「長生きのリスク」というより「高齢になり、働いて所得を得る能力が低下するリスク」に備えた仕組みとして年金をとらえたほうが現実的かもしれません。
・・・支給開始年齢になると、年金は申請さえすれば受け取れます。働く能力があるのに、年金をもらえるので引退生活に入るという人もいるでしょう。年金制度の本来の趣旨からみると、これは「モラルハザード」の典型的な例です。

こうした「モラルハザード」が生じるのは、「働く能力があるかどうか、一人ひとりに聞いて回り、正確な情報を得るにはあまりにも多くの費用がかかるから」政府は一定の支給開始年齢を設定しているため、と説明される。
平均余命
そして、右図「平均余命と就業率の関係(男性)」を示し、現行の年金支給開始年齢がいかに不合理で再検討すべき時期にきていると主張する。

図は、1975年と2010年のそれぞれにおいて、各年齢における平均余命と就業率の関係を調べたものです。10年の65歳の平均余命は、35年前では58歳とほぼ同じですが、就業率は37ポイントも低くなっています。高齢者の多様性に配慮しつつ、年金受給と就業の在り方を再検討すべき時期ではないでしょうか。

この議論、「働く能力」を「平均余命」により推し量ることができるとし、それを前提に現行の年金制度は、「モラルハザード」の温床となっているように主張する。結局のところ、年金支給開始年齢を「モラルハザード」という脅し文句で引き上げようとしているように推察できる。

JAバンクのTVコマーシャル
最近、松下奈緒が出演するJAバンクのTVコマーシャルをよく見かける。このコマーシャル、「年金 アクティブシニア応援 2015」篇というもの。その内容、リタイアして年金生活にはいる「老人」がアクティブに生活を謳歌するのを応援する、というものになっている。

コマーシャルの意図は、リタイアする老人の退職金とか年金を金融機関として期待するというものではあるが、その作りはリタイア後の生活がいかにバラ色であるかを描いている。このコマーシャル、松下奈緒が「楽しみですね」と微笑むところで締めくくられる。

小塩隆士・一橋大学教授の主張では、まさにこの「楽しみ」のリタイア生活は、「モラルハザード」の典型ということになるようだ。

年金生活者の一人である私、あなたたちの年金生活、「モラルハザード」の典型、なんて脅されると、びびってしまう。開き直って、体を鍛えて、元気な年金生活をおくるって決意をあらたにしたところだ。


Post a Comment