伊藤公一朗著「データ分析の力 因果関係に迫る思考法」を読んでみた
June 4, 2017 – 3:22 pm社会の動きを理解・予測しようとすると、意識するしないは別にして、事象間の「因果関係」を基礎に考えることになる。「因果関係」には、「風が吹けば桶屋が儲かる」という格言的レベルから、「アメリカの金利が上がれば日本円の対ドルレートは円安にふれる」という新聞の解説記事で見かけるものまでいろいろある。
議論するうえで基礎にする「因果関係」の各々がどの程度正しく、有効なものなのかを判定するのはなかなか簡単ではない。このあたりをどのように考えれば良いのかと思っていたところ、数日前の日経(2017/5/27付)の読書欄に「経済学の輪郭つかむ 数式使わぬ入門書増える」というのがあり、そのなかで本書が紹介されていた。
読んでみた。
期待したほどのものではなかったが、読んだという記録くらいは残しておこうということでメモしておいた。
この日経の記事では、本書は次のように紹介されていた:
ビジネスや政策の様々な場面で、因果関係の見極めは非常に重要ーーー。米シカゴ大学助教授の伊藤公一朗著『データ分析の力 因果関係に迫る思考法』(光文社新書)は計量経済学による実証分析の入門書だ。2つの現象に因果関係があるかどうかを解明する方法を、具体例を挙げて検討する。例えば「電力価格の上昇と節電の関係」では、価格を上げるグループと、上げないグループに分けて結果を比べる「ランダム化比較試験(RCT)」と呼ばれる手法を「最良の方法」として示す。まるで実験したかのような状況をうまく利用する「自然実験の手法にも触れている。
本書で取り上げられている分析の具体例には以下がある(本書の帯の記載をそのまま転載)
- オバマ大統領は2012年の大統領選で、選挙広告戦略の因果関係を適切に見極めたことで、72億円も多く選挙資金を集めることができた
- グーグルが使う文字の青色は「41種類の青」から因果分析実験で選ばれた最高の青だった
- 税込み表示すると、スーパーの売り上げが8%減る?
- データ分析を用いて最適な料金を変動させるウーバーの戦略とは?
- ノートパソコンを無償で支給すると、子供たちの成績は上がるか?
- 「節電要請」は、本当に節電につながるのか?
- 医療費の自己負担額が下がると、病院に行く人が急増する
- 自動車の燃費規制は、本当に燃費を向上させているのか?
- 所得税が上がると人々は働かなくなる?税金が低い国へ移譲する
- 補助金バラマキの景気刺激策は、本当に効果があるのか?
上掲した具体例のリスト、日常生活のなかのちょっとした疑問、好奇心をそそるものという程度の課題がならなんでいる。本書では、いずれの課題についても、主観的な判断ではなく明確な証拠(エビデンス)に裏打ちされた答えをどう導くための「作法」が示されている。昨今の情報処理技術の普及によりビッグデータの収集が可能になったことから、適切な統計的手法を用いることにより、こうした課題への解を得ることができるとする。
一読した私の印象・感想を述べると、確かに、主観的な判断ではなく「客観的なデータ」を分析することで、意思決定するための「根拠」を得ることはできるようだ。しかし、大量のデータを操り一定の答えを導けたとしたも、その背後にあるメカニズムについてはほとんど言及されないとの印象。
なんとも私にとっては、消化不良の読後感といったところが正直なところだ。