なかにし礼著「闘う力 -再発がんに克つ-」を読んでみた
April 18, 2016 – 11:04 am3年前の「生きる力」に続いて、今回、この「闘う力」を読んだ。
前回の「生きる力」は食道ガンの陽子線による治療について書かれていた。今回は、その治療にもかかわらず再発したがんを抗がん剤中心の治療により克服した経験について書かれている
私自身、血液系のガンを抗がん剤治療で克服した経験を持っており、著者による抗がん剤治療の苦しみ、副作用の実態についての記述に共感し、興味深く読ませてもらった。
がん患者のもつ再発への恐怖感: ガンを患い一応は「治癒」したものにとって再発に対する恐怖感は大変なものだ。体に対して少しでも変調があると、ガンが再発したのではないかと気になってしまう。私の場合、ガンの発症そして治療の開始から数えて11年過ぎたのだが、いまだにその恐怖感からは解放されない。
本書でも、なかにし礼さんは、そのあたりを次のように記している:
・・がんというものは、治っても、またいつどこででてくるかもわからない怖い病気なのである。そして医師たちは「治った」という言葉よりも「消えた」という言葉を使う。消えたことは間違いない事実であり、同時にあらたに発生する可能性があるのだから「治った」とは言わないのある。(p.8)
私の場合も、退院後、「完治ですか?」なんて質問を多く受けた。しかし、がんに「完治」ということはほぼない。
「完全寛解」なんて言葉はある。症状が消えて検査でも異常がない状態を指す言葉である。特に、抗がん剤治療の場合には、この「寛解」という用語をよく聞く。がんには「治る」という言葉は相応しくない病気なのかもしれない。
がん再発から抗がん剤治療: なかにしさんの食道がんも、残念ながら、陽子線による治療から2年半で再発してしまった。それから外科手術の試み(断念)を経て、最後の手段として抗がん剤治療を行う。そして、上述の「寛解」に至った。
さらに、なかにしさんの場合には、最後に、治療を確実なものにするために陽子線による治療を、今回も、行っている。抗がん剤治療の後、「念のため」に放射線治療を行い、治療効果をより確かなものにする手続きがある。私の場合にも、抗がん剤治療により「寛解」に至ったのち、放射線治療を行った。
抗がん剤治療は患者しか分からないような「苦労」がある。表面的な脱毛、口内炎などの「副作用」の症状だけでなく、外からは窺いしれない内面的、精神的な、鬱(うつ)状態、気力を失なうといった状態になることがある。私も、半年にも及ぶ抗がん剤治療をした際に、同じような経験をしたことがある。
そのあたり、なかにしさんは、わたしも経験した「苦労」を詳細に書いている。私の体験から参考になると思うところを、以下に、抜粋しておいた。
まず、なかにしさんは、経験したことのないような脱力感におそわれる:
(抗がん剤治療も)三回目までは、何とか持ちこたえることができた。・・耐えることができていた。
四回目の抗がん剤になったら、ついに腰砕け状態になり、何もかもが駄目なような感じになってきたのだ。
この状態を「抗がん剤治療」によるものと疑い、薬剤担当の医師に質問する。それに対する医師の答え、そしてその結末。
「因果関係についてははっきり言えませんが、そういう例はままあり得ますね。そういう患者さんには担当の医師のご意見を聞いた上で、抗不安剤を処方しています」
と言うではないか、詳しく話を聞くと、実は抗がん剤治療による無数のストレス、不眠症、倦怠感、吐き気、微熱など、肉体的苦痛がつづくことで、こういった精神状態になることは結構あることらしい。それでもこうした「抗がん剤による鬱状態」というのがあまり知られていないのは、患者の多くがそれを言わないからなんだそうだ。つまり、多くの患者が、
「抗がん剤はこういうものなんだ、苦しいものなんだ」
「元気が出ないのは自分の気が弱いからなんだ」
というように解釈してしまっているらしい。
私は「気が強く」「アクティブに生きてきた人間」だった。だから気が弱くなっている現状自体が「おかしい」と気づいた。そして医師もその原因はやはり抗がん剤治療によるものだろうと言ってくれて薬を持ってきてくれた。一日二回。その薬を飲んだ。結果、私の精神は徐々に安定をとりもどしたのであった。(p.p.90-93)
ちょっと感想: 本書を読むなかで、著者なかにしさんの病魔に対して屈しない姿勢に感心するのは当然であるが、加えて、最近のがん治療の著しい進歩を再確認する。
話題の陽子線による放射線治療も平成26年に「先進医療」のひとつとして厚生省により認められたようだ。これにより、保険適用治療と併せて陽子線治療を受けることができるようになった。将来、保険の適用対象の治療となり、がんに対する標準治療となるかもしれない。
また、抗がん剤治療については、各種の抗がん剤の開発に加えて、抗がん剤治療に付随する副作用、患者の苦しみを緩和する「技術」も、どんどん、開発・普及してきている。
ふたりに一人はがんを患うという。自らの「闘う力」と「医療技術の進歩」を信じて、これに向かいたい。