米NRCのSOARCA(NUREG-1935)報告書に掲載のソースターム

April 4, 2016 – 10:36 am

 ひと月前に読んだ憂慮する科学者同盟の「実録 FUKUSHIMA」のなかで議論されていた米国NRCの報告書SOARCA(NUREG-1935)を眺めてみた。詳細は別にして、そこに示されていたヨウ素とセシウムのソースターム(事故発生時から48時間の放出積算割合の図)が興味深かったのでメモしておいた。

興味深く思ったのは、「最新の知見」を反映した解析結果が1982年のそれと比較されているところだ。比較の対照とされているのは、1982年出版のNUREG/CR-2239(Techinical Guidance for Siting Criteria Development)の解析で、下に示すソースタームの図の中で “1982 Siting Study(SST1)” と表示されているものだ。

SOARCA報告書のソースタームを表す二つの図を以下に掲げる;

SOARCA_source_term_Iodine

SOARCA_source_term_cesium0

 ふたつの図からすぐわかることは、SST1のソースタームは事故発生時から1時間半経過した時点で放射性物質の放出がはじまり、その後2時間半程度放出が続き、その後は放射能の放出は終了・停止する(ように図から読み取れる)。放出総量は、ヨウ素については炉心のインベントリーの45%、そしてセシウムについては68%程度と読み取れる。

 これに対しSOARCAの新らしい解析では、放射能の放出プロセスをより細かく取り込んだ解析に基づき求められたソースタームになっており、事故形態による放出プロファイルの違いを反映するものになっているように見受けられる。また、放射能の放出総量はSST1のそれに比べて低く見積もられている。特に、セシウムについては著しく低くなっていることが読み取れる。

放射能の放出プロファイルをどのように見積もるかは、原子炉事故時における周辺住民の避難・退避の計画策定において考慮すべき重要なポイントになると思う。放射能放出総量の違いは当然のことながら、放出開始時間、その後の時間の経過に伴う放出率の変化のなども、退避・避難の計画を策定する際に考慮すべき大切なファクタになるだろう。

 SOARCAにおけるソースタームの見積もりがどの程度正確かは議論のあるところであるが、それを別にしても放射能の放出プロセスが複雑なもので、SST1で示されているような事故開始時から短時間に一定割合の放射能が放出されるというような単純なものではないことは理解しておかねばならないだろう。

 うがった見方をすれば、TMI事故の発生を受けて検討された退避・避難の検討は、SST1のソースターム程度の粗さをベースに行われたものと考えていいのかもしれない。

 


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