気になったニュース: 原子力機構の被曝事故と機構のずさんな管理
June 16, 2017 – 10:57 am一昨日の朝(2017年6月14日)のTBSラジオ森本毅朗スタンバイで、6日に発生した原子力機構・大洗での被曝事故について1週間経過時点で明らかになったことを報じていた。
このニュースに加え、私がこの1週間、この被曝事故について考えたこと、そしてこの間に見かけた資料などをメモしておいた。
まず、TBSラジオ森本毅朗スタンバイのニュースとコメンテータの発言要旨から;
茨城県大洗町にある日本原子力研究開発機構の施設で作業員が被曝した事故で破裂したビニール袋の中に放射性物質の中に成分の分からない物質も入っていたことが分かりました。また、原子力機構が13年前にもビニール袋の拡張を確認していたことも明らかになっています。
番組のコメンテータ渋谷和宏さんは、上記ニュースを受け、以下の補足・コメント(以下、要約):
- 原子力機構の管理のずさんさが以下に列挙する事実でをあらためて明らかになった
- 破裂したビニール袋のなかの放射性物質の成分も不明な状態、適切に管理されていなかった
- ビニール内で発生したガスはなんらかの有機物(不明な成分)が放射線分解で発生したものと推定。作業員の聞き取りでもやもやしたガスが発生との証言から一致
- 10年以上前にもビニール袋の膨張した事象があったにも関わらず、この事実が機構内部で共有されておらず、今回の作業の手順にも生かされていなかった
- 当初報告された作業員のPu-239の肺への取り込みがないことが明らかになったが、この誤りの原因は、測定時に周囲が除染されてない環境下でおこない、バックグランドを考慮のなかにいれてなかったことによる
なんとも、お粗末な話になっている。このラジオ番組では、原子力機構への不信感満載。ま、こんなていたらくでは、どんなに非難されてもしょうがないなと思ってしまう。
ビニール内にたまったガスは何だったのか!:
このニュースを聞きやはりそういうことなんだと、ある意味、納得した。ビニール袋のなかの放射性物質の組成が明らかでなく、なんらかの有機物が放射線分解してガスが発生したと推定されたのである。
この推定、事故直後、マスコミで報道されていた「Heガス充満説」を否定するものだ。
事故発生直後、ビニール袋のガスはPu-239の崩壊に際して放出されるHe(α線)が蓄積したものだとの見解が「専門家」の談話として報じられていた。私には、この説明、とても納得がゆくものではなく、とりあえず、以下のようにTweetしておいた:
原子力機構のプルトニウム被ばく、日経記事では、「ガス充満、バッグ破裂」とし、発生したガスはPuから放出されたHe(アルファ線)が26年間にわたって蓄積したものとの原子力機構の見解を紹介。
毎日の記事でも同様の説明を見かけたが、これって本当?にわかには信じられないけど。— Yamasnet (@Yamasnet) June 9, 2017
一部の報道でビニール袋の中身の重量が300gとの話を見かけた(日経の6月7日の記事に、「入っていた放射性物質300グラム弱の一部が漏れたとみられる」との記載)。これを参考に、300グラムの内容物の全てがPu-239であると仮定し、26年間の間に生成するHeガスの体積を概算してみた。結果、Heガスは高々30㎝^3程度で容器の体積3,885㎝^3であることを考えると、破裂の原因がHeガスの生成・充満とはとても考えられなかった。
実は、このHeガス説、私が最初に見かけたのは毎日新聞の6月8日付の記事「原子力機構・内部被ばく 2.2万ベクレル 保管26年、ガス発生か 点検最初の袋破裂」で「専門家」の指摘として紹介されている。関連部分を抜粋すると以下:
なぜビニール袋が破裂したのか。出光一哉・九州大教授(核燃料工学)は「ウランやプルトニウムなどは時間がたつと原子核が崩壊し、ヘリウムの原子核(アルファ線)が飛び出す。長期間保管してヘリウムガスがたまり、容器の内圧が高まって破裂した可能性はある」と指摘する。
原子力機構の関係者もこの可能性を認め「破損の可能性があるポリエチレン製容器を長期保管で使うのはよくなかったかもしれない」と明かした。
マスコミ報道のなかでは、このHeガス充満説が流布されている。6月8日付日経電子版記事「ガス充満、バッグ破裂か 原子力機構の被爆事故」のなかで、この「可能性」について以下のように言及されている:
エネルギー総合工学研究所原子力工学センターの内藤正則副センター長は「ガスがかなり充満して圧力が高くなっていた」とみる。プルトニウムなどは放射線の一種のアルファ線を出す性質があり、アルファ線から変化したヘリウムガスが蓄積したとみられる。
ビニール袋のなかには何があったのか? その管理は適切だった?:
今回の被曝事故についてのマスコミ報道では、最初の数日間、最も重要な情報の一つであるはずのビニール袋のなかの内容物について、Pu-239を含む放射性物質という以外には、殆ど何も報じられていなかった。
報道内容は、ビニール袋が破裂して内容物が飛び散り、作業者がかなりの量のPu-239を(肺に)取り込み、被爆したということ、現場の状況くらいだった。
事故に係る詳細な情報を知りたいということで原子力規制委員会のHPのなかに情報を探してみた。我々のような一般人が閲覧できる情報のなかに、事故後に原子力機構が規制員会に面談・報告した内容を見つけることができた。
資料は、「原子力規制委員会 被規制者との面談概要・資料」(事故・施設故障等に関するもの)というもので、ここには今回の事故に該当する資料として、以下が含まれていた:
日付: 平成29年6月08日
件名: 日本原子力研究開発機構大洗研究開発センター燃料研究棟における作業員の汚染事象について
被規制者: 日本原子力研究開発機構
この議事要旨のなかに、ビニール袋のなかの内容物について記述されていた。【点検作業に係る経緯】という形でまとめられており、知りたいと思った情報が含まれていた。以下、多少長くなるが、これを以下に転載:
【点検作業に係る経緯】
- 燃料研究棟については、本来は許可申請書上の使用施設で、貯蔵施設で はないにもかかわらず、過去の研究開発で使用した核燃料物質が長期に わたって使用中と称し保管されている状況。
- 平成 29 年 2 月に原子力規制庁より指摘事項として改善を求められたこ と等(平成 29 年 2 月 15 日原子力規制委員会資料)を受けて、使用をし ていない又は廃棄物の仕掛品となる核燃料物質について,安定化処理し た上で、貯蔵施設の保管庫で貯蔵している貯蔵容器(80 個) の中に追 加で収納する作業を予定。
- 安定化処理対象は、U又はPuの溶融塩から電気分解により金属U又は 金属Puを取り出した溶融塩の残渣等である。なお、安定化処理の最終 形態は不明。
- 貯蔵容器の中には、核燃料物質をGB内で収納した茶筒形のポリ容器(密 封性なし)をビニルバッグで二重の封入(密封性あり)したものを入れ ており、今回の作業では、108 号室のフードにおいて、貯蔵容器を開封 し、貯蔵容器内に追加で収納する核燃料物質のための空きスペースがあ るかどうかを点検する作業を実施(ビニルバッグやポリ容器の開封は実 施しない)
- これまでに 80 個の貯蔵容器の内 31 個の貯蔵容器について作業を実施 (前日までに 27 個、発生当日 6 月 6 日は 4 個について実施済み)し、 32 個目の貯蔵容器の開封作業において今回の事象が発生。
- なお、作業を終了している貯蔵容器 31 個は化学的形態や物理的性状が 明らかな 核燃料物質を収納、今回の 32 個目は複数の化合物が混在した 試験済燃料(残渣・スクラップ)を収納した貯蔵容器で最初のもの。
- 今回の貯蔵容器は 1991 年に収納。内容物はUとPuの混合化合物で、 化合形態としては、過去に研究開発を行っていた酸化物や窒化物などで あるが確認中である。U、Puの金属重量換算でPuが約 27%である。 貯蔵容器の点検やビニルバッグの交換実績等については確認中。
ここには、原子力機構の驚くような管理実態が記されている。
今回被曝事故をおこした作業で対象としていた核燃物質は、正規の貯蔵庫に保管されていたものではなく、30年近く前から「使用中」との名目で「使用施設」内に放置状態になっていたというものであったようだ。しかも、ひとつふたつではなくかなりの個数の容器がこの状態で放置されていたという。ある種驚愕する状態にあったといえる。
さて、話をもとにもどしてビニールのなかの内容物はなんだったのか?
結論からいうと、組成ははっきりしないが、上掲の議事要旨から、それらし情報を抜き出すと以下のようになる。
ビニール袋内の内容物は、
U又はPuの溶融塩から電気分解により金属U又は 金属Puを取り出した溶融塩の残渣等
内容物はUとPuの混合化合物で、 化合形態としては、過去に研究開発を行っていた酸化物や窒化物などで ある
U、Puの金属重量換算でPuが約 27%である
びっくりするような話ではあるが、わけのわかんないものを扱っているうちに、ビニール袋が破裂して周囲を汚染、被爆事故がおきました程度の話という、お粗末さだ。
それにしても、動燃のいいかげんさは当然としても、6月8日時点で原子力規制員会でこれだけの資料が公開されているのに、マスコミ報道のなかみは、この資料を反映していない。マスコミの取材も、なんとも頼りないものというのが私の印象だ。
最後に、ちょっと一言:
事故後に行われた計測から大量のPu-239が作業者の肺に取り込まれたという話が汚染環境下での計測ということを考慮したかったためにミスリードされたものであったとの話もあった。
大変な内部被ばくという事態が「幸い」にも否定されることになって、ホッ!とはしたが、被曝量の推定をするための計測もきちんとできない原子力機構の放射線管理者の能力を疑わざるを得ない、と思った。
私自身、もう40年も前のことになるが、短い期間ではあったが、放射線管理者としての業務についていたことがある。今回の事故のドタバタを見ると、私の経験から照らして、全く信じられないような話だ。
だらだらと書いてしまったが、今回の被曝事故について、私なりに考えをまとめておきたいということで作ったメモ。 今回の事故について考えようとしている方の参考になればいいな、と思う次第。
関連資料(付録) :
資料整理ということで、参考にしたニュース記事、その他資料のリストを作っておいた。
日本経済新聞の関連記事(電子版など)
原子力機構 発表 お知らせ 事故・トラブル関連(2017)に記載の関連資料
2017/06/06 | 燃料研究棟(PFRF)における作業員の身体汚染に伴う立入制限区域の設定について |
2017/06/07 | 原子力機構大洗研究開発センター燃料研究棟における汚染について |
2017/06/09 | 大洗研究開発センター燃料研究棟における汚染について(続報) 【関連画像】 |
2017/06/12 | 大洗研究開発センター燃料研究棟における汚染について(続報2) |
2017/06/13 | 大洗研究開発センター燃料研究棟における汚染について(続報3) |
2017/06/15 | 大洗研究開発センター燃料研究棟における汚染について(続報4) |
2017/06/19 | 「燃料研究棟における汚染について」に関する報告書の提出について |
報告書全文:https://www.jaea.go.jp/04/o-arai/ |
原子力規制委員会HPの公開資料(原子力規制委員会 被規制者との面談概要・資料)
日時 | 平成29年06月08日 |
件名 | 日本原子力研究開発機構大洗研究開発センター燃料研究棟における作業員の汚染事象について |
被規制者 | 日本原子力研究開発機構 |
議事要旨 資料1 燃料研究棟における汚染について 資料2 貯蔵容器図面 資料3 フード写真 資料4 貯蔵容器の点検状況 資料5 作業員配置図
日時 | 平成29年06月19日 |
件名 | 日本原子力研究開発機構大洗研究開発センター燃料研究棟における作業員の汚染事象について |
被規制者 | 日本原子力研究開発機構 |
議事要旨
2 Responses to “気になったニュース: 原子力機構の被曝事故と機構のずさんな管理”
こんにちは。本日の朝お会いできて驚きました。
大洗研究開発センターの原子力汚染事象について,読まさせて頂きました。 分かり易くまとめてあり参考になりました。ありがとうございます。
また,ホームページを見させて頂きます。
頑張って下さい!!
By Kobayashi hideo on Jun 26, 2017
久しぶりにお会いしてうれしかったです。
さっそく、読んでいただいてありがとうございます。
今後とも、よろしくお願いします。
By yama on Jun 27, 2017