石川迪夫著「考証 福島原子力事故(増補改訂版)」を読んでみた

July 19, 2018 – 12:21 am

近所の公立図書館で本書を見かけ、読んでみた。

本書は、3年前(2014年3月)出版の「考証 福島原子力事故」の増補改訂版だ。この初版本も同じ図書館で貸出し読んだことがある。今回、増補・改訂版ということで、改めて読んでみた。

本書の著者である石川迪夫とは、私が原子力業界で仕事をしていたこともあり、少しではあるが面識はある。面識があるといっても、遥か高い位置にあった著者に多少の思い出があるということにすぎない。その当時と変わらず自信に満ちた著者の「主張」に接し昔を思い出した。

著者の立場は、福島第一の事故後も、以前と変わらず原子力を強力に推進しようとするものだ。私の反原子力の立場とは相いれない。本書の全編を通じ、「原子力界重鎮」としての著者の主張は、私のような反原子力の立場をとるものを説き伏そうとする「凄み」を感じさせる。

本書の目次構成は以下

  •   第一部 炉心溶融・水素爆発はどう起こったか
  •     第1章 スリーマイル島原子力発電所事故
  •     第2章 福島第一原子力発電所事故 1~3 号機編
  •     第3章 福島第一原子力発電所事故 4号機編
  •   第二部 原子力安全向上と福島復興の論点
  •     第1章 放射線放出と住民避難
  •     第2章 津波と全電源喪失
  •     第3章 安全再構築
  •     第4章 廃炉への道
  •     第5章 考証結果と新たな知見
  • 第一部では、福島第一原子力発電所事故について、東京電力により公表された事故時のプラントデータ、原子炉圧力容器そして格納容器の温度、圧力、水位、さらには発電所サイトの放射線モニター値などの推移などを著者の「経験・知見」に基づき詳細に解釈(「考証」)しようとする。

    「考証」の結果、以下のように結論する。

    • 炉心の溶融(と水素の発生)はジルカロイと水との化学反応による発熱で起きる。
      ・・この反応を発生させるためには、ジルカロイが高温であることと、水が十分あること。(p.217)
    • 適切な注水ができれば大規模な炉心溶融を防ぐ可能性がある。
      崩壊熱で昇温した燃料棒は、原子炉圧力を強制的に抜いて減圧したとき、減圧沸騰による蒸気の流れで一時的に冷やされます。・・2、3号機に減圧に伴う沸騰によって炉心の飽和温度は150~160℃ほどにまで下がっていました。この直後に、寸刻をおかずに水が注入されていれば、低温のジルカロイは水と反応しませんから、燃料棒が分断されることはあっても、炉心が溶融することはありません。従って、水素爆発も起きませんでした。(p.219~221)

    以上を私なりに要約すると、崩壊熱による温度上昇はジルカロイ・水反応を可能なステージを提供するだけであり、炉心溶融そして急激な水素ガスの発生にいたる最後の一撃はジルカロイ・水反応である。従って、炉心溶融を防ぐには炉心を強制的に減圧させ(減圧沸騰で温度が下がっている間に)間髪を入れず水を注入すれば良い。福島第一の惨劇は、減圧から注水までに間が空いたことにある。

    私自身は、上記した著者の「考証」結果の正否を判断する能力は持ち合わせていない。ただ、多少、眉につばを付けて話を聞かせて頂いたというののが正直なところだ。

    第二部では,、福島第一事故との関わりのなか「著者の思い」といったものが述べられる。事故時の政府の措置・対応に対する非難・批判、そして事故後に原子力規制委員会によって策定された新しい規制に対する批判など、「原子力業界長老」を自認する著者の嘆きともいえる言説が述べられる。

    著者の言説の基本は、原子力施設がいかに堅固なものであるかを強調し、今後も変わらず原子力を推進してゆくという姿勢だ。ここには多くのことが語られており、突っ込みどころ満載という感じはするのだが、著者の主張ひとつひとつを吟味してもしょうがない。失礼ながら、調査の言説を聞くに「老害」としか感じられない部分も多い。

    ただ、ベントについて述べられた部分については興味深く思った。著者の主張に触れながら私の感じたところを、以下、メモしておくことにした。

    SCベントによる格納容器内の放射性物質の大気中への放出:
    原子力発電所は、「止める」「冷やす」「閉じ込める」という3つの考え方で安全を確保するという設計になっている。このうち「閉じ込める」は、原子炉の「圧力容器・格納容器で放射性物質を閉じ込め」放射性物質を外部に放出させないということだ。その意味で、格納容器は原子炉「最後の防壁」という役割を負っている。

    ところが、事故時に内圧が著しく上昇し、格納容器を破損が危惧される状況が生じると、格納容器内部の(放射性物質を含む)気体を意識的に放出し減圧する仕組みも準備されている。この格納容器内の気体放出のための装置、操作をさしてベントと呼んでいる。

    このベントという措置について、本ブログでも佐藤一男著の「原子力安全の論理」の読後メモのなかでも触れたことがある。ベントが格納容器が本来持つべき「閉じ込め機能」を否定することにもなることから比較的詳しく議論した。

    福島第一事故では、1号機と3号機ではベント操作が実行され、格納容器内の放射性物質を含む気体が大気中に放出された。ここで、大気中への放出に際しては、放射性物質を含む気体はSC(サプレッション・チェンバー)内の水をくぐり、最終的にスタックを通じて放出されている。

    一方、2号機については、ベント操作は試みられたものの失敗、格納容器が破損し容器内に溜まっていた高濃度の放射性物質を含む気体が、直接。大気中に放出されてしまった。2号機において「ベントが開かれなかった理由は、ベント管内に差し挟まれていたいた破裂版(ラプチャーディスク)が破れなかったためといわれている(p.251)」。

    環境放射線モニター値の変化とベント操作
    事故発生時、原子力発電所正門付近(4基の発電所の西1キロの位置)の放射線量率の変化が記録されている。本書(第一部第一章)では、1,3号機におけるベント操作時、そして2号機における水素爆発による格納容器からの放射性物質を含む気体の直接放出放出時の夫々における線量率の変化について詳しく検討している。

    検討のなかみは以下:

    1号機では、ベントを開いた直後(12日午後2時頃?:筆者追記)に線量率が急上昇しましたが、それは背景線量率を増大させるほどの放射能量ではありませんでした。また、3月13日朝から14日昼頃にかけて3回にわたって放出された3号機のベントは格納容器の圧力低下の大きさからみても、非常に大量の気体を放出したベントでした。それにも関わらず、背景線量率はほとんど増えていません。
    ・・・・
    一方、2号機においては、破裂版が破れなかったため、14日午後10時頃の格納容器に伴い発生した水素ガスによって、格納容器圧力は0.8メガパスカル近くにまで上昇。この圧力上昇により水素ガスは(1号機の爆発により外れていたブローアウトパネルを通じて)外界に流出しました。その結果、原子炉建屋は爆発を免れましたが、格納容器の放射能が直接漏れ出しました。この放射能放出により、正門付近の放射線モニタ―がを一時的に毎時400マイクロシーベルトに上昇しています。
    その後も2号機の水素ガスの発生は続き、15日午前6時頃、過圧に耐えかねた格納容器のどこかに破損が起きたといわれています。この格納容器の破損によって放射能の再流出が起き、その線量率は最大毎時1万マイクロシーベルト余を記録しました。(pp.245-253を抜粋要約)

    この検討を通じ、著者はS/Cベントが安全上きわめて有効との認識を示し、これまでの常識を覆すような提案をすることになる。

    以下、少し長くなるが、引用;

    SCベントの効果と格納容器設計――ベントの有用性を見直す
     福島事故では、早くからベント開放を実施した1,3号機での放射能放出による背景線量率の上昇は年間約20ミリシーベルトほどで止まりましたが、格納容器が破損した2号機からの放出では、背景線量率は年間1500ミリシーベルト以上に上昇しました。ベントの成功・失敗は明らかです。前者の線量レベルは住民避難を必要としませんが、後者は必要でした。
     格納容器は、これまでの事故時の放射能の閉じ込める最後の障壁と考えられ、頑丈な機密耐圧容器として設計製作されてきました。しかし、格納容器にも耐えうる限度があります。その損壊を防ぐためにベントを開くと、中に閉じ込めらえていた放射能が外部環境に放散されるので、住民被曝の問題が生じます。これは大きなジレンマです。従ってこれまでは、ベントの実施は「安全上の最後の手段」と受け止められていました。
     しかし福島事故が示したデータは、実態が全く異なることを示しました。格納容器を最後の砦として使うより、早い時期にベントを開いて内部の放射能ガスを放散する方が、放射線被曝の量が少ないことが分かりました。さらにベントの早期解放は、・・炉心への冷却水注入にとっても有利です。SCベントの除染効果は大きく、極めて実用的です。
     福島事故が示した2段階の背景線量率上昇のデータ比較から――ベントが開いた時と失敗したとき――水を潜るベントの除染効果はざっと1000倍ほどあるといえます。・・
     ここで登場するのが、溶融炉心からの放射線量率です。仮にそれを今回の測定最大値の年間1500ミリシーベルトとしておきましょう。ベントを通せば、その線量率は1000分のⅠになりますから、年間1.5ミリシーベルトにまで下ります。この線量は、我々が地球上に住む限り受ける線量率とほぼ同じです。
     このことは、原子力事故が起き炉心が溶融していても、ベントが有る限り放射線被曝量は我々が住む地球から受ける放射線量とほぼ同じということになります。一般の方々には、俄に信用できない話でしょうが、福島のデータを分析する限り言い得ることです。
     ベントの効果はここまで大きいのです。(pp.363~365)

    著者自身が「一般の方々には、俄に信用できないでしょうが、」と言いながら、驚くようなベントの効果。もし、この議論が正しいものであるなら、BWR原子炉の安全設計の考えかたが全く異なるものになる。

    私自身、俄には信じられないのだが、このような驚くような議論が存在することを、ひとつの私の思いもよらなかった話としてメモしておくべきと思った次第。

    それにしても、本書の著者、石川迪夫、既に85歳を超えてなお元気に「活躍」していることには驚く。


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