インフルエンザ感染拡大予測シミュレーションの意義って何?

June 14, 2009 – 12:01 pm

20日ほど前、「新型インフルエンザの拡大をどう考えればいいのだろう」を書いた。そこで国立感染症研究所で行われている「感染拡大予測シミュレーション」について触れた。その後、わが国の感染者数はじわじわと増加、昨日6月12日時点で549人となった(厚生労働省HP情報)。果たして、この「予測シミュレーション」は実際の感染者数変化の推移を「予測」できたのか?

感染拡大予測シミュレーションは事態を正確に予測していたか?: 5月12日に、わが国の最初の感染者が確認されて丁度一ヶ月が経過したところだ。前回のエントリー「新型インフルエンザの拡大をどう考えればいいのだろう」で紹介した「感染拡大予測シミュレーション」では、最初の感染者の入国から2週間目には東京で322,000人の新たな感染者が発生すると予測している。ところが現実の感染者数の発生は、冒頭で書いているように、わが国全体で、「わずか」549人にとどまっている。「予測値」と実際の感染者数は、全く異なっている。この相違を、我々は、どのように理解すればいいのだろう?

予測値と実際の違いの原因を考えてみた: 予測値と実際の感染者数の相違は余りにも大きい。この違いは、一体何に起因するのだろう。「予測シミュレーション」の目的は、「新型」インフルエンザの発生に対する事前の防御策の策定に役立てる性格のものだ。これが、なんら現実の事態を反映しておらないということになれば、「予測シミュレーション」の意味、意義は全く無くなってしまう。むしろ、こうした「予測値」が、我々に誤った行動をとらせてしまう。

予測値と実際の感染者数の相違を説明するため、私のような素人ながら思いつくことを、箇条書きに、書き出してみた: 

  1. わが国の最初の感染者発生が確認され採られた対策が成功し、「シミュレーション」で想定されたような事態を避けることができている。
  2.  「シミュレーション」にくみ込まれている諸仮定、ヒトからヒトへの感染メカニズム、形態などに誤りがある。あるいは、予測にあたって、「シミュレーション」にとりこまれているシナリオがかなり保守的(危険を大きく見積もる)に設定されている。
  3.  今回のインフルエンザが実は「新型」ではなく、すでにわが国、国民の大部分が免疫を有しており、感染の可能性が低いものであった。
  4.  公表されている感染者数が実態を反映していない。実際は、相当な数の感染者がありながら、厚生労働省が捕捉することができなかった。

シミュレーションモデルの開発グループは、この「素人の思いつき」、疑問に対し、どのように説明してくれるのだろう?興味深い。このあたりのことが吟味できないようでは、真に役立つシミュレーションとは言えないのではないだろうか。

今、シミュレーションに必要なことは?: あれこれ考えてみるが、どうも「見かけの」精度を求めることに汲々とした大規模「感染拡大予測シミュレーション」なるもの、計算に必要な感染メカニズムなど基本的なところに問題があり、ほとんど無力なのではという印象を受けてしまう。

シミュレーションモデルとしては、もっと簡易で小回りが利き、事態の推移を効果的に説明するようなものを必要とするのではないか?というところが、私の偽らざる感想だ。このあたり、国立感染症研究所のシミュレーショングループ(大日康史・国立感染症研究所感染症情報センター主任研究員のグループ)のかたがたの意見を聞きたいところだ。

一昨日、WHOは今回の新型インフルエンザに対し最も高い警戒レベル、フェーズ6を宣言した。今回の警戒レベルの引き上げ、オーストラリアの感染者の「急速な」増加が主だった理由のようだ。もはやパンデミックの状態にあるという。

前回のエントリーで書いたように、「新型」インフルエンザが終息するには、①ほとんどのヒトが罹患し免疫を獲得する、②ワクチンが開発され、これにより免疫を獲得する、③ウイルスが死に絶える、の3つしかないはずだ。だとすれば、今回のWHOの宣言したパンデミックの状態、今後、相当長期間にわたって続くと考えざるをえない。

こうした事態で、実効的な対策をとることができるような「予測シミュレーション」こそ必要ではないのか。「感染拡大予測シミュレーション」を単なる「数値いじり」で終わらせてはならない。


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  2. Aug 23, 2009: 新型インフルエンザ対策と日本の危機管理 | Yama's Memorandum
  3. Oct 29, 2010: 昨年のインフルエンザ騒ぎはどうなったのだろう? | Yama's Memorandum

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