立花隆著「『知』のソフトウェア」を読んで

May 5, 2008 – 12:29 pm

前回、前々回、梅棹忠夫の「知的生産の技術」に触発されて、人間の「知の生産」「発想」ということについて、いろいろ考えてみた。関連する図書は、ということで近所の図書館に行ってみると、表題の立花隆の本にでくわした。立花隆といえば、どこかで「知の巨人」なんて紹介されていた。「知」といえば、この人か、ということで、早速、借りて読んでみた。なるほどと思うところも多かった。KJ法のくだりは、前回書いた。ここでは、その他、興味深く感じた部分、参考になったと思った部分について、抜書きしておいた。

本書の結論は、実に、簡単だ。本書の冒頭、著者曰く、この本を「知的情報のインプットとアプトプットを長年にわたって生業としてつづけてきた筆者の個人的な覚書のようなものである。」とし、「人間が個性的な存在であるから、知的インプットとアウトプットの方法に一般論は存在しない。」(p.8-9)とする。そして、あとがきの最後には、「本書の内容を一言で要約すれば、『自分で自分の方法論を早く発見しなさい』ということである。本書を含めて、人の方法論に惑わされてはならない。」(p.236)と締めくくる。この結論、前回のエントリーで、彼のKJ法の批判について抜粋した部分に、その考えが具体的に示されていると思う。

情報と権力: まず、よく聞くフレーズに、「情報は権力」というのがある。ジャーナリストとしての立花隆、当然のことながら、これについて論ずる。以下に抜粋したのは、行政組織が持つ情報の豊富さに言及しているくだりだ:

 アメリカの大統領にしても、日本の首相にしても、はじめて一国の最高権力者にあった人が例外なしに驚くことは、最高権力者のみにアクセスが与えられている情報の量の多さと質の高さであるという。
 情報は権力である。情報それ自体が力を持ち、また情報は力を持つものに流れる。逆に、権力は情報を集め、集めた情報は権力維持にかつようされるという面もある。権力機構すなわち行政機構はすべて、見方をかえれば情報機関でもある。
 官庁に収集・蓄積されている情報の量には驚くべきものがある。しかし、日本の官庁は伝統的に秘密主義に徹しており、そうした情報をほとんど外部に出さない。(p.106-107)

なるほどと思う。しかし、最近の日本政府のいろいろな面での失態、彼らの持つ「情報の量の多さと質の高さ」から考えると、どういうことなのだろう。アクセスはできても、使いこなせない欠陥でもあるのだろうか?「質の高い」情報が大量にあっても、意思決定に際しては、適切な情報処理機構(いわゆる官僚機構がそれを行うのか?)が欠けているということなのではないのか?などと思う。

コンピュータの効用: さて、本書が出版されたのは、ほぼ二十数年前だ。やっと、PCが世にあらわれたころだ。電子メールも、一部に、使用され始めたものの、一般的な通信手段にはなっていなかった。こうした時代背景のもとで、「知の巨人」立花隆は、コンピュータあるいは情報処理技術をどのように見ていたのか?

・・・・ コンピュータが威力を発揮するのは、情報の検索においてであろう。しかしこれはまずデータ・バンクの側で、態勢をととのえてもらわなければどうにもならない。日本の国会図書館をはじめとする公的データ・バンクはあまりにも遅れている。・・日本でも、アメリカの議会図書館のコンピュータ索引のようなものがあちこちにできて、それを誰でも電話回線で利用できるようになったら、おそらくいままで各所で死蔵されていた資料の相当部分が生きて利用されるようになるだろう。(p.106)

コンピュータの最大の「威力」を、情報の「検索能力」にあるとする。さらに、こうした威力が発揮されるためには、「データ・バンクの側で、態勢をととのえてもらわなければどうにもならない」としている。少し話題がそれるが、福田首相の「国立公文書館」の機能拡充構想は、非常に重要なことを言っているのかもしれない。ひょっとしたら、このあたり(データの保存・整理と検索技術の欠如)が、「大量の質の高い情報」を使えこなせない日本政府の弱点かもしれない、などと思ってしまう。

情報の信頼性: 本書の性格上、「書き手」として、収集する情報の信頼性、そして書く内容についての信頼性をいかに高めるかについて議論されている。繰り返し述べられていることは、「一歩でもオリジナル情報に近づけ」という原則だ。また、

世の中には、想像以上にガセネタが多いものである。この世で流通している真実の量より、ウソやデタラメの流通量のほうがはるかに多いだろう。したがって、いかなる情報に接しても、いつでもその真実性を吟味してから受け入れる習慣を身につけておくことが必要である。(p.216)

という。職業ジャーナリストでなくとも、今や、誰でもWebを通じて大量の情報を得ることができる、個々が得られた情報の真実性の吟味ができる能力を身につけることがますます重要になっているということを肝に銘じるべしということか。


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  2. Jan 23, 2014: 立花隆さんの知のソフトウェアが大好きすぎる。 | @attrip (アットトリップ)

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