PCによる円周率世界記録更新の意味

January 24, 2010 – 3:22 pm

昨年4月に筑波大学のスパコンを用いて樹立された円周率世界記録がフランスの技術者により破られた。実に、新記録の樹立は通常のPCによるものだという。PC「お宅」の私としては、うれしくなるニュースだ。この記録更新の意味を考えてみた。

2週間くらい前のYOMIURI ONLINEで、円周率世界記録更新が次のように報じられていた:

パリ在住のフランス人デジタルテレビ関連技術者が、円周率を2兆6999億9999万けたまで計算し、世界記録の更新を宣言した。
筑波大学計算科学研究センターのスーパーコンピュータが昨年樹立した記録を塗り替えたことになる。
ホームページで新記録を公表したのはファブリス・ベラールさん。筑波大学のスパコンが昨年、73時間36分かけて樹立した世界記録は2兆5769億8037万けただったが、ベラールさんはこれを約1230億けた上回ったことになる。
また、ベラールさんが計算に使ったのはスパコンではなく、価格2000ユーロ(約26万円)以下の普通のデスクトップ型パソコン。2進法による計算に103日、検算に13日かけたという。

この話、実に興味深い。

Pi Computation Recordというページで、計算した本人が、世界記録更新を、

I am pleased to announce a new world record for the computation of the digits of Pi. —

と宣言している。このページには、計算に使用したHardwareのスペックについても次のように記されている;

PC used during the computation:

– Core i7 CPU at 2.93GHz
– 6GiB of RAM
– 7.5TB of disk storage using five 1.5TB hard disks (Segate Barracuda 7200.11 model)

私自身は、計算結果が正しいものかどうかを判断することはできない。そのあたりは、専門家にまかせるとして、ここで私が注目したいことは、使われたPCが、なにも特別なものではなく、秋葉原に行けば(秋葉原でなくても近所のパソコンショップで)、すぐにでも買い揃えることができる代物というところだ。筑波大学の記録がスパコン上で達成されたのに対し、今回の記録は私の手に届く、「パソコン」で達成されたところが実に良い。

円周率計算の意味はどこにあるのか?: 筑波大学のスパコンで記録を樹立した計算について、「情報処理学会誌」の12月号に、計算した本人の解説が掲載されている(高橋大介、“円周率世界記録更新 2兆5769億8073万桁への道、” 情報処理Vol.50 No.12 Dec. 2009)。

このなかで、円周率計算の意義について著者は、次のように述べている:

・・・円周率の値そのものを詳しく求めても、直接何かに役立つというわけではない。
しかし、今回の円周率計算においてはT2K筑波システムの性能や信頼性を実証することができたばかりでなく、プログラムの高速化の過程において大規模システムにおける並列FFTライブラリの改良にもつながった。

この解説から、少し乱暴に円周率計算の意義をまとめると、円周率の計算により「(計算システムの)性能や信頼性を実証する」ことができる、ということになる。

PCの記録樹立の意味: 「(計算システムの)性能や信頼性を実証」との観点から、今回のPCによる記録樹立を考えてみると、今回の円周率の計算により、「我々が家庭で使うPCの性能や信頼性は」スパコンにも劣らないことが「実証」されたということになる(少し、強引な議論かな?)。

当然のことながら、スパコンによる計算時間とPCによるそれとは、73時間対116日と格段の差がある。これを見る限り、スパコンの役割がPCにより置き換わるということはない。

しかし、だ。スパコンは誰もが使えるしろものではない。それを使用しようとすると、マシンタイム確保のために、計算に先立って、その意義を明らかにし、それなりの審査を受ける必要がある。さまざまなハードルを越えなければならないはずだ。そうこうするうちに、あっという間に時間が過ぎてゆく。

これに対し、PCは個人が独占して使うことができる。世の中(学会など)に認知されていない極端にいうと「トンデモ」アイデアと非難されそうな計画に基づく計算だって実行することだってできる。そう考えてみると、市井の(自称?)研究者に大発見のチャンスだってあるかもしれない!

夢のようなことを想像してしまう。

科学研究のありかたまで話しが進む。少し話しが古くなってしまうが、「事業仕分け」で話題になった「スパコン性能を世界一にしなくては・・」という議論、少し視点を変えて考えてみる必要があるのではと思ってしまう。優れたアイデアを持つ研究者であれば、別にスパコンがなくたって、一流の研究成果を挙げることができるとういうことではないのだろうか?

少し言いすぎという感じもするが、「あたらずとも遠からず」というところではと思うのだが、いかがだろう。

私も、Core  i7のCPUを搭載したPCを組み立ててみようか、なんて思ってしまう。


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