「医薬分業」制度で薬代が高くなった!!

June 2, 2015 – 6:37 pm

65歳を超えて「高齢者」に仲間入りすると、病院とか薬局にお世話になる機会が増える。いままであまり気にしてなかった医療・薬事行政のありかた、特に薬の診療報酬のありかたが気になってきた。

もう随分前になるが、「処方薬の値段は薬局で異なる ‐調剤技術料って必要-」なんてエントリを書いたことがある。そこで、我々が支払う薬代には、技術料とか管理料といった不可思議なものが付加、請求され、しかもそれが薬局ごとに違うことを知った。

この技術料とか管理料について調べてみると、これは「医薬分業」なる制度を推進するために導入されたものであり、薬剤費全体のかなりの部分を占めるものであることがわかる。

このあたり、少し考えてみた。

医薬分業とは何?
いつごろからかは定かではないが、薬を病院でもらうことが無くなった。最近は、お医者さんがくれる処方箋を持って病院前の薬局で薬を受け取るのが普通になった。薬の受け取り場所が変わっただけでなく、以前より薬代が高くなったようにも感じる。

この背景には、「医薬分業」という施策があるようだ。「医薬分業」なる制度は、厚生労働省がネット上で公開している資料(「医薬分業の考え方と薬局の独立性の確保」)に、次のように説明されている。

医薬分業とは、医師が患者に処方箋を交付し、薬局の薬剤師がその処方箋に基づき調剤を行い、医師と薬剤師がそれぞれの専門分野で業務を分担し国民医療の質的向上を図るものである。なお、欧米では広く一般的に医薬分業が行われている。

国民医療の質を向上させるため、医師、薬剤師両方がその役割を発揮できる条件を整えるための制度のようだ。

では、薬が処方されるうえで、医師、薬剤師それぞれが果たすべき役割、その関係はどのようなものだろうか。この厚生労働省の資料には、「医薬分業に関する関係法令」が添付されており、薬の処方について、医師、薬剤師が果たすべき役割が示されている。

関係法令の記述によると、医師、薬剤師の役割は、次の5項目にまとめることができるようだ:

  1. 医師は、患者に対し、薬の処方せんを交付することが義務づけられている
  2. 薬の調剤が許されるのは、処方せんを交付した医師と、薬剤師だけ
  3. 薬剤師が薬の調剤をする場合、医師の処方せんによらなければならない
  4. 薬剤師が医師の処方せんに問題ありとするときは、医師に問い合わせ確認しなければ、調剤してはならない
  5. 薬剤師は、患者に、薬剤の適正な使用のために必要な情報提供と指導をする

薬剤師の役割は、法令上、あくまで医師の補助的なもので、医師にかわって薬の調剤と患者への情報提供といった実務的なものに限定されていることがわかる。薬剤師の役割として特別に考えるべき項目は、上記の4.の「医師への疑義」項目(クロスチェックといっても良いだろう)と、5.の薬剤についての情報を患者に提供し、それを適正に使用するよう促すといったことあたりだろう。

これだけみると、我々の若いころと同じように、薬の処方も診察してもらった病院でやってもらえばよいように感じる。以前と同様に病院のなかで「医師と薬剤師がそれぞれの専門分野で業務を分担」すればよいではないか。薬剤師がいなくても処方箋を書いた医師が薬剤も処方することもできる。病院外で薬を処方(院外処方)することが、かならずしも「医薬分業」を促進することと一致するようには思えない。

いろいろ考えてみると、「医薬分業」を進めるというのは「国民医療の質向上」という建前をもちだして、薬の処方は病院外で行う(院外処方)ように仕向けるということのようだ。これにより、薬の処方において、医師の権限を抑制することになりそうだし、一方、医師に対して補助的なものでしかない薬剤師の権限・役割を拡充することにはなりそうだ。

なぜ「院外処方」が普及したのか
今、薬の処方の7割が「院外処方」をベースとする「医薬分業」になっているという。どのような経緯で「院外処方」が普及したのか。

日経Web(2015/2/26付)の記事「病院内に薬局OK、政府が規制緩和検討、経営の独立条件に」によると、ここまで「医薬分業」(院外処方)という仕組みが普及したきっかけは1974年の厚労省による診療報酬の改定によるという。

以下、この記事の一部を引用する:

・・・普及のきっかけは、厚労省が1974年、薬を病院外の薬局で処方する「院外処方」の場合に病院が受け取る処方箋料を、大幅に上げる料金改定をしたことだ。収入が落ちないため、医薬分業に切り替える病院が増え始めた。

 薬局に対しても、調剤や薬の服用歴の管理のため料金を高く設定している。患者の支払額は、医薬分業だと、病院が直接薬を処方する場合に比べ、医療費ベースで約1千円、3割自己負担のベースで300円余り多い。

なるほど、と思う。「医薬分業」という仕組みを導入するため、医師にとっても、薬剤師(薬局)にとっても、院外処方をすれば利益を得ることができるように制度が設計されたということのようだ。

それにしても、薬を院外処方することにより、「病院が直接薬を処方する場合にくらべ医療費ベースで約1千円、3割自己負担ベースで300円あまり多く」なるというのは、多額に過ぎないか?奇妙に感じてしまう。

患者の負担、そして公的医療保険への負担を増大することにより、院外処方が7割を占めるまでに、みごとに「医薬分業」の制度を普及・定着させた、ということのようだ。

果たして、これだけの負担を増大させるだけの意味が「医薬分業」を促進することに意味があるのか、疑問を感じてしまう。

「医薬分業」制度により患者・公的医療保険の負担は約7千億円 増加!!
院外処方の促進により、患者そして公的な医療保険への負担は当然のことながら大きくなった。こうした負担の増大が、どれだけ「国民医療の質向上」に寄与したのか?

残念ながら、私の個人的な実感では、ほとんど寄与していないのではないか、と思わざるを得ない。処方薬の情報などは、Web上でかなり詳細な情報を得ることができる。極端な言い方をすれば、お医者さんの処方箋に基づいてネット販売できる条件が整えば問題ないようにも思う。

それはそれとして、「院外処方」が定着したことにより我が国の医療費はどの程度増えたのか、私の理解では、処方箋一枚あたり「医療費ベースで約1千円」が増えると考えていいはずだ。したがって、上述の厚生労働省の資料によると25年度に交付された処方箋は7億枚に上るというのだから、「医薬分業」に要する費用は7千億円にも上るということになる。

驚くべきことではないか!


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