「ひかりTV」による地デジ/BSの受信を検討してみた
January 15, 2011 – 2:03 pm知人から「NTTの光回線で地デジとかBS放送を見たいと思うけど、どうしたらいいの?」と相談を受けた。この機会に、と光回線によるテレビの受信方法と手続きなどについて調べてみた。ここ数年で、随分、関連技術が進んでいる。なかでも、IP再送信と呼ばれる技術の進歩は著しい。このIP再送信技術を使うサービス「ひかりTV」では(利用可能地域は限られるものの)、既に、地上デジタル放送、BSデジタル放送(BSは、現状ではNHKの3放送のみ)の両方が受信可能になっている。検討したことをメモしておいた。なかなか新しく面白い技術だ。
2つの異なる受信方法: NTTの光回線によるテレビ放送を受信するのに2つの異なる方法がある。「フレッツテレビ」と「ひかりテレビ」のふたつの受信方法だ。このふたつの方式、NTTの光回線を使うことは共通しているが、その方式は全く異なる。
このうち「フレッツテレビ」は光回線に映像信号を(RF方式で)流す方式だ。これまでのケーブルテレビによる受信と同じ方式と考えてよい。この方式だと、外部アンテナ(UHFおよびBSのパラボラアンテナ)からの映像信号がNTTの光回線に置き換わるだけだ。戸建ての家で、地デジ対策にこの「フレッツテレビ」を用いようとすると、外部アンテナを付け替えるのとほぼ同じ工事が必要になる。NTTの光回線を用いるメリットは殆どない。
一方、「ひかりTV」は、IP再送信と呼ばれる技術をもちいる(配信方式はIPv6マルチキャスト)。このIP再送信は、「専用のIP網を用いて放送に類似した通信サービスを用いる『IP放送』の一種であり、地上波をほぼリアルタイムで配信する」ものだ。2006年末から、このIP再送信による通信サービスが認められ、つい一月前(12月)から、地上デジタル、BS放送(現在、NHKの放送のみ)についても、この「ひかりTV」で視聴可能になった。
「ひかりTV」の設置は簡単?: 「ひかりTV」の設置は比較的簡単だ。光回線(フレッツ光ネクスト)加入時に設置されたルータのLANポートと「ひかりTV」対応のチューナーをLANケーブルで接続するだけでよい。チューナからはコンポジット端子、D端子、HDMI端子を通じて映像信号が出力される。これをTV受像機で受けることになる。
ルーターとテレビ受像機(チューナー)が異なる部屋にあり離れている場合であっても、無線LANあるいはPLC(Power Line Communications)を経由することにより特別な工事をすることなく、テレビ放送視聴が可能になる。ただ、無線LANの使用にはネットワーク構成上の問題もあり、「ひかりTV」のサービスを提供するNTTプララは有線のLANケーブルを使うことを推奨している。
「ひかりTV」を運営するNTTプララは、ひかりTVの利用に適すネットワーク機器かどうかを検証する「ひかりTV機器動作確認済みロゴ」を発行しており、無線LAN機器あるいはPLCについて使用可能な機器に対しこのロゴを発行している。ネットワーク機器の導入には、このロゴ発行の仕組みは役立つものと思う。ネットワーク環境および構成についての注意点については後に述べる。
「ひかりTV」経由で得られるテレビ画像の質は?: 地上デジタルあるいはBSデジタル放送をアンテナ経由で受信するさいに得られる映像品質が「ひかりTV」において維持されているかどうかは気になるところだ。実際に確かめてこようと、近所の電気店にでかけて、デモ放送を見てきた。殆ど問題ない。地上デジタルあるいはBSデジタルの画質は維持され、精細な映像が楽しめた。
「ひかりTV」との契約と費用は?: 話が前後してしまうが、当然のことながら「ひかりTV」を利用するには「ひかりTV」と契約をし、利用料を支払わなければならない。
NTTプララのカスタマーセンターによると、「ひかりTV」の契約を申し込むと2週間程度で利用者に「ひかりTV」対応のチューナーが送られてくるようだ。このチューナーの設定を完了すると、設定完了から24時間以内には視聴可能になるという。
地上デジタルとBSデジタル放送のみを視聴する場合には、「基本放送プラン」と呼ばれる契約をすればよい。この契約プランに要する費用、月額1,050円、これに加えて「ひかりテレビ」対応チューナーのレンタル料525円、トータルで1,575円が必要だ。登録時には、別途、初期費用が必要なようであるが、現在、キャンペーン中で無料になっている。
「ひかりTV」を利用するうえでの注意点: 「ひかりTV」で地上デジタル、BSデジタル放送の受信を可能にする技術的基盤はNTTのNGN(Next Generation Network) だ。IP再送信自体は従来のインターネット経由でも可能ではあるが、ハイビジョン映像の伝送に必要な帯域の確保、放送地域外からのアクセスなどの問題をクリアするうえで「優先制御機能と配信地域を限定したIP(v6)マルチキャスト機能」を持つNGNの技術が必須となっている。
NTTの提供する光回線でNGNを基盤とするサービスは「フレッツ光Next」という商品名で提供されている。このため、「ひかりテレビ」による地デジ、BSデジタルの受信には、その前提として「フレッツ光Next」への加入が必要である。「ひかりTV」のVOD(Video On Demand)などのサービスは、NGNではないBフレッツでも可能であるが、上記の理由から地デジ、BSデジタルの視聴はできない。
もうひとつの注意点として、「ひかりTV」がIPv6マルチキャスト方式で映像情報を配信していることがある。この場合、ルーター、ハブなどネットワーク機器がIPv6の利用できる形態に対応しなければならない。古いルーターには(我が家の場合そうであるが)、IPv6が対応してないものがあること、新しいモデルのルーターでもIPv6ブリッジを有効にしておく必要がある。
ネットワーク機器に関る問題であるが、上記のIPv6の問題に加えて、無線LANルータを用いようとするとかなり厄介な問題が生じる。「ひかりテレビ」がマルチキャスト方式で映像信号を配信していることによる問題だ。これだと、「ひかりテレビ」対応のチューナーを無線LANルータの配下で動作させようとすると大量の映像パケットがマルチキャストされ、無線LANを用いる他の機器の通信が阻害されてしまう。このあたりが「ひかりTV」で無線LANの使用を推奨しない理由なのであろう、と想像する。
こうした問題を避けるには、ルーターから「ひかりTV」対応チューナーへの接続は有線LANで行う、あるいはルーター設置位置とテレビ受像機が別室にあり有線LANの利用が困難な場合にはPLC経由で接続する、ということになると思う。「ひかりテレビ動作確認ロゴ」取得のPLC(PN-1100HD)の仕様をみると、実通信速度がUDPで90Mpbsあり、十分、必要な帯域は確保できると考えられる。
注意点としてさらにもうひとつ、「ひかりTV」専用のチューナを用いる場合、地デジあるいはBSデジタルで提供される高画質でのDVD録画は、現状では、できない。高画質での録画をしようとすると、USB経由でのHDへの録画ということになる。この問題、実用的には、結構、大きなことなのかもしれない。
おわりに: いろいろ調べてみると、「ひかりテレビ」というか、もっと一般的な意味で、IP-TVというのはかなり新しい技術だ。今後、相当程度の普及が見込まれる面白い分野であることがわかった。
現在、「ひかりテレビ」で地上デジタルあるいはBSデジタル放送を視聴しようとすると、これに対応する特別なチューナーが必要で、まだ市販のテレビ受像機では対応していない。そう遅くない時期に、対応チューナを搭載した受像機が販売されることになるに違いない。そうすると、チューナーレンタル料も不用になる。
いろいろ課題も散見されるが、今後の映像配信、電波を用いる現行の放送システム、「ひかりTV」のようなIP-TVにとって代わられるのも、そう遠い将来ではない、との印象を強く持つ。
試しに、「ひかりTV」を契約してみるか、なんて気分になった。