「科学技術の智」プロジェクトって何だ?

November 27, 2008 – 1:04 pm

「21世紀を豊かに生きるための『科学技術の智』」というタイトルの報告が日本学術会議から公表されている。読んでみた。「日本人が身につけるべき科学技術の基礎的素養に関する調査研究」(通称、「科学技術の智」プロジェクト)というものの報告書というものらしい。印象をひとことでいうと、この報告書が何を主張しているのか良くわからなかった。とりあえず、「理科離れ問題」を考えるひとつの材料としてメモしておくことにした。

「科学技術の智」プロジェクトのめざすものはなにか?ということについて、この報告書を私なりに読むと、そのゴールは、

全ての日本の大人が2030年の時点で身につけていることが望まれる科学技術の素養である、「科学技術の智」を提示し、・・・・ 2008(平成20)年に生まれた子どもたちが、22年後の2030年に成人として社会にでるときまでに、『科学の智』が社会全体に行き渡っている(p.2)

状況を作り出していくということらしい。

このプロジェクトの実施の契機は、いわゆる「理科離れ」問題にあるようだ。これまでの日本学術会議の活動(「若者の科学力増進と区別委員会」など)を通じて、この「理科離れ」問題が深刻な事態であるとの認識が持たれ、その議論のなかで、

教育のゴールを設定することが日本の将来の科学技術の在り方にとって最も重要なことの一つ 全ての成人が身に付けていることが望まれる科学技術の知識や考え方を明示することによって、学校教育にとってのみならず、博物館、科学館などにおける社会教育にとっても指針となるものを作成し、定着させていくのである。

とされた。これを受け、

21世紀の日本の社会が真の意味で豊かであり続けるために、すべての日本人が身に付けるべき科学・数学・技術に関る知識・技能・考え方を、我が国の特性に合わせて独自に明示することを目的として、・・・・ 国立教育政策研究所を中心に ・・・・ 「科学技術の智」プロジェクト を実施。(p.1-2)

となっている。

「理科離れ」の問題について、私自身、かなり関心がある。深刻な問題だ。しかし、どうも、この報告書に述べられていることには違和感がある、というのが正直なところだ。この「科学技術の智」プロジェクト、単に、博物館、科学館をもっと作ろうなんていう話しなのではないかと疑ってしまうのだ。この報告書をまとめた学力増進分科会の委員長が毛利衛・科学未来館館長ということもその思いを強くしてしまった。

私が、唯一、この報告書に共感を持った部分は、次の一節だ:

従来、自然科学と人文・社会科学は「二つの文化」と呼ばれ、しばしば峻別されてきた。とりわけわが国では、高校教育において文系と理系のいずれかを選択させるという進路指導を通じて、その傾向が助長されてきた。・・・(p.9)

文系・理系の進路指導にたいする疑問については、私も 「高1で理系・文系を選択する?」で議論したところだ。学校教育のちぐはぐな状態こそが、いわゆる「理科離れ」という問題の根にあるのではというのが実感だ。だとすれば、「科学館、博物館をもっと作ろう」とも受け取れる(私の誤解であればよいのだが・・・・)議論をしているときではないのではと考えるのは言い過ぎか?


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