「原子力安全基盤科学 – 放射線防護と環境放射線管理-」を読んでみた

September 22, 2018 – 3:56 pm

福島第一原子力発電所の事故後、京都大学原子炉実験所で原子力安全基盤科学研究プロジェクトが進められたという。

この研究プロジェクトのひとつの成果として、「原子力安全基盤科学 (3分冊)」が出版された。これは「『原子力安全確保の考え方って何だ』という市民の問に対し、原子力安全を考えなおす上で必要な基礎的な情報を包括的に解説する書籍」(第一分冊 はじめに)として出版されたものである。標記した本書は、その第3分冊目にあたり、放射線防護・環境放射線管理について解説・議論している。

この書を一読し、本書が、福島第一原発事故から7年という月日が経った今、放射線・放射能を取り扱う作業者を放射線被曝から防護することから始まり、原子力発電所から事故的に放出された放射能による環境汚染から一般公衆・周辺住民の防護に至る放射線管理・防護のありかたを学ぶうえで有益なテキストのひとつになっているように思えた。

本書の構成
以下に本書の目次・章だてを示す:

  • 第一章 放射線と放射性同位元素の基礎知識
  • 第二章 放射線の健康影響とリスク
  • 第三章 放射性物質の環境中移行と被曝評価
  • 第四章 環境放射線の監視と管理
  • 第五章 原子力利用と安全基盤としての放射線管理(学)

福島第一事故における環境放射線の測定と住民の防護:
第4章では、著者らの福島第一事故の経験・教訓を中心に述べている部分が興味深い。

事故に際しては原子力安全委員会策定の「環境放射線モニタリング指針」に基づいて、緊急時対応を実施されることになっていた。

しかし、「電気、通信、交通、燃料といった基本的なインフラや資材の供給が寸断されたなかであっただけに、事前に計画されていた通りの行動をとろうにもとることができなかった(p.147)」。そして「あらかじめ想定していた事故時の事象に最適化された計画が立案され、それに対応した装備や体制が準備されていたため、想定と異なった状況に陥って計画の前提となる事柄が一つでも欠けてしまうと、体制全体が崩れ去ってしまうものであった(p.150)」と述べている。

このように、事故時においては、環境放射線のモニタリング体制は混乱のなかにあり、十分に機能しなかったことを詳しく読み取ることができる。こうしたなか、京大原子炉実験所のグループにより、比較的簡便な放射線計測機器を多数配置し、それらをインターネット環境で接続・共有するシステムKURAMAが短期間に開発された経験が紹介され、その有効性について議論されている。

緊急事態における環境放射線モニタリングの在り方について有効な対策とは何かを考えるうえでひとつの教訓を提供しているように思える。
  


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