「『昨年の気温、21世紀で最低』なる記事」どう読むべき?

February 4, 2009 – 2:59 pm

2月2日付の日経(朝刊)に、「昨年の気温、21世紀で最低-地球の気候当面『寒冷化』」という記事がでていた。IPCCの第4次報告が出て以来、グリーンハウス(CO2排出)効果による地球温暖化問題が大きく取り上げられているなか、一転「寒冷化」という記事、一体、この報道をどのように考えれば良いのか。少し、考えてみた。

日経(2月2日付、朝刊)の記事: 記事のリード文を引用すると:

地球の平均気温の上昇が頭打ちになり、専門家の間で気候は当分寒冷化に向うとの見方が強まってきた。地球温暖化の主因とされる二酸化炭素(CO2)の排出は増え続けているものの、自然の変動がその影響を打ち消す方向に働き始めたとみられている。気温の推移は、温暖化対策の論議の行方にも影響を与えそうだ。

この記事には、1990年から昨年までの平均気温の推移(英気象庁調べ)と2025年までのIPCCによる気温上昇の予測(3種類の排出シナリオ別)を示す下図が合わせて示されている。この図を見る限り、実際の平均気温の推移がIPCCの予測と異なっていることが見てとれる。

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また、この現象に対し、意見の異なるふたりの専門家がコメントしている。ひとりは江守正多・国立環境研究所温暖化リスク評価研究室長。この「寒冷化」傾向を、「海洋の数十年規模の自然変動が現在は低温局面に入っており、長期的な上昇傾向を打ち消している」とし、「自然変動はいずれ反転し、・・・・十~二十年後には急速な温暖化が訪れる」という。

一方、もうひとりの専門家、赤祖父俊一・米アラスカ大学名誉教授は、「IPCCは予測の誤りを認め」るべきとし、最近の気温の変化について

地球の気温は小氷期と呼ばれる寒冷期からの回復が1800年代から続いており、その上昇ペースは百年で0.5度。過去百年の気温上昇は約0.6度なので近年の気温上昇の大部分は小氷期からの回復分とみなすことができる。これに数十年規模の自然変動が作用して今は気温上昇が押さえられている。

としている。

江守正多氏のコメントは、地球温暖化と呼ばれる気候変動を(『科学的な』知見に基づき)モデル化し計算機シミュレーションにより解釈、予測しようとするとき、未だ、気候の自然変動寄与部分について充分な知見が得られていないことを反映していると考えられる。一方、赤祖父名誉教授の議論では、IPCCがいう「人為的な諸活動の気候への影響」は自然変動の大きさに対しとるに足らないものであると結論しているように受け取れる。

私の感想を述べさせてもらうなら、やはり、気象のモデル化そして計算機シミュレーションは、気象学の進歩、知見の蓄積を反映しているものであり、尊重しなければならないもの思う。今回の予測値との乖離については、科学的な気象研究をさらに推し進める必要を示唆するものであり、その役割を否定するものではない。

IPCCの将来予測・警告が教えるもの: 「当面、寒冷化」と呼ばれる現象が現われたとしても、IPCCの将来予測・警告の重大さは変わらない。気候変動は、当然のことながら、さまざまな要因がからみあった複雑な現象だ。今回の「当面、寒冷化」の現象は、そうした複雑な現象の表れのひとつとして捉えるべきものだ。

IPCC報告の重要なポイントは、我々人類の諸活動が、自然変動に匹敵するほどの大きさになってきていることを、具体的に指し示したことにあると考える。わずか百年前には、想像することができなかった規模で人間の諸活動が地球環境に影響を与え始めた事実なのだ。

地球温暖化問題はブレなく取り組むべき問題: 今回の「当面、寒冷化」との報道を受けて、所謂エコ運動に疑問をなげかける論議もでてくるだろう。確かに、このブログでも書いたように、こうした環境問題に対し精神論的な対応を説くものもある(「レジ袋不使用が地球温暖化対策?」)。また、アル・ゴアの著書に見られるような、科学的な裏づけを欠く、政治的プロパガンダといえる動きもある(「アル・ゴア著・枝廣淳子訳『不都合な真実』を読んでみて」)。こうした動きの特徴は、自然変動のある種の「ゆらぎ」に対し、右往左往することになりがちだ。

繰り返しになるが、私はIPCCの将来予測・警告は、我々が到達した科学的な知見・水準から照らして、最も正しいものと考えている。今回の「当面、寒冷化」という現象は、天が我々に与えた一時的な猶予と理解し、人間の諸活動と地球環境の変化という問題について、腰を据えて考えてゆくことこそ重要なのではないかと思う。


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