冷えていく地球

March 31, 2008 – 4:14 pm

何年かぶりに本棚を整理していたら、「冷えていく地球」なるタイトルの文庫本をみつけた。この文庫本、角川文庫として昭和56年6月10日初版発行、著者は根本順吉となっている。今から24年前に出版されたものだ。私自身が購入したものには違いないのだが、どのような内容だったか全く記憶にない。今、地球温暖化が大問題になっている。わずか二十数年前、全く逆に「冷えていく地球」なる議論があったとは。早速、読み直してみた。

著者「根本順吉」氏について、本書では、以下のように紹介されている:

大正八年(1919)-。東京に生まれる。気象技術官養成所卒業。気象庁を経て、現在埼玉大学講師。三十年以上の天気予報歴、また長期予報や気象学史の研究をふまえ。食料対策や環境問題にも鋭い提言を続けている。
[主要著書]「天気予報」「気候変化」「異常気象を追って」「冷えていく地球」「氷河期へ向かう地球」「江戸晴雨攷(中公文庫」「地球はふるえる」

1999年の糸井重里らとの対談で、糸井が気象予報士を医者になぞらえて、「根本先生は、お医者さんで言えば研究医ですか、それとも臨床医?」との問うたのに答えて、自らのことを、次のように言っている:

「私は学者じゃないです。言うなれば、現場で叩き上げてきた大工。だけど、みんながやったことのない経験をすごく積んでいますよ。天気図がありますね。みなさんが目にするのは極東の、日本付近だけのものでしょう。私は北半球全体の天気図を2年間ぶっ続けで書いていて、それをやったの、日本では私だけです。今は気象庁でも、ほとんど予報官は天気図を書きません。全部コンピューター。でも機械じゃ、細かい前線の変化は把握できないです。今は情報化の時代で、家にいても世界中のデータがわかるし、いい点もあるけど、みんな、その情報を読みきれないのです。」
ほぼ日刊イトイ新聞―婦人公論 井戸端会議 ( 婦人公論1999年10月22日号からの転載) 天気が教えてくれること〔全4回〕)

この「文庫本」(「冷えていく地球」)の著者、根本順吉は、自らをたたき上げの気象予報官と称し、退官後埼玉大学で教鞭をとりながら、気象関連の研究をやっていたかたのようである。

「冷えていく地球」では、まず、1960年代~1980年(本書の出版された時期)の間に異常気象現象が頻繁に起きているという実態を説明する。そして、この現象を気候が遷移期にはいった表れとして捉えられるとし、70年代にはいって一つの寒冷な気候の状態(著者は、これを第四小氷期と名づけている)に入ったと主張している。この第四小氷期は、それ以前の安定した気候の時代と全く違った極地の寒冷化の時代に入ったと説明するのだ。では、この第四小氷期がどの程度続くものなのか、筆者は、以下のように予想する:

過去に何回かあった小氷期のステージはみな数十年から百数十年ぐらい続いていますから、第Ⅳステージも過去の小氷期から類推すると、まだはいりたてで、当分は続くと思います。そしてこの小氷期の前の間氷期は1890年から1950年ぐらいの約半世紀の間続いたことになりますから、この周期からいっても1950年からあと50年ぐらい、すなわち今世紀の終わりぐらいまでは寒冷時代であることが予想されます。(P.129)

この書では、やがて(確実に)やってくる氷河期が早くて二、三百年後、遅くても二、三千年後に始まるという専門家の意見を紹介しているものの、著者が第四小氷期と呼ぶ寒冷時代は、1950~2000年の50年間程度続く程度のものと見積もっているに過ぎない。この本のタイトル「冷えていく地球」が示唆する寒冷化とは全く異なる内容だったのだ。本書の意図は、タイトルが示す全地球的な寒冷時代の到来というより、むしろ異常気象の発生メカニズムを詳述し、その備えの必要を説いている書と考えるべきなのかもしれない。

しかしである。この根本順吉氏、1999年に行われた前掲の対談で、次のように発言している;

今、世界中が暑いんです。過去600年間の北半球の平均表面気温の変化を書いたグラフがありますが、1950年くらいから上がり出して、ここ最近の高さは過去にはないんですよ。
1975年からは10年間に0.27度くらい上がっていて、そのくらいだったら、みなさんがよく言う炭酸ガス排出による温室効果だと考えられます。ところが、1990年以降は10年間で0.77度も上がってる。その前までの3倍ですよ。この上昇率を見て恐ろしいと思わなかったら、どうかしてます。ところがみんな、そういう意識がぜんぜんない。
これまでの学説にあてはまりませんからね。いまだに、石油かなんかをうんと使うための温室効果だという考えが主流ですが、世界でこの問題をいちばん長くやっているキーリングという人がつくった二酸化炭素濃度と気温変化との関係を表したグラフを見てください。気温が上がって1年か1年半遅れて、炭酸ガスが増えてるでしょう。

1950年代から小氷期とよばれる寒冷時代に突入したと、根本氏、主張していたはずではないのか?1999年の対談では、1950年くらいから北半球の平均表面気温が上がり続けていると言っている。「冷えていく地球」の主張はどこにいったのだろうか?全く予想していなかった展開に唖然としてしまう。私ひとりの印象だろうか?根本氏の著書リストを調べてみた。実に、1989年には、文春ネスコで「熱くなる地球」なる著書もある。びっくりしてしまう。

地球温暖化問題をどう捉えるべきなのか?偶然、我が書棚に眠っていた文庫本「冷えていく地球」からとんでもない事実を知ることになった。なにも、根本順吉氏の主張が一貫していないことをあげつらうために、このブログ記事を書こうとしたのではない。地球温暖化という事態について、より深い理解ができればと思い、読み進めただけだ。IPCC報告の地球温暖化の原因がCO2の排出にあるという断定的結論が正しいかどうかは、素人の私には分からない。しかし、長年の「現場で叩き上げ」という経験があるとしても、短期間に、矛盾した自説を主張されるのはいかがなものか。真に科学的な態度をとり続けることと、経験から(たとえ、豊富な経験があっても)現象を分析する、あるいは能力がある、ということとは異なるのではないかと思うのである。

それにしても、後味の悪い、読後感になってしまった。残念。

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