がん発症でも働き続けるべき??
December 15, 2019 – 10:42 am今朝の日経朝刊(12月15日付)に「がんになっても働く」とタイトルされた記事がでていた。
記事の主張するところは、たとえがんになっても働くことに積極的であって欲しい。そして、がん患者を雇用する事業者側は働きやすい職場環境を整備すべしということのようだ。
私は、丁度、15年前にがんを発症した経験を持っている。発症した段階では、ステージ4という状態であったが、未だに元気に過ごしている。ガン患者といっても、今は、半年に一度の「経過観察」のための診察を受けるくらいだ。
がん患者の立場から、この新聞記事にいろいろ思うところがある。
私自身は、約9ヶ月の入院治療を経て退院したあと復職したが、復職後半年で中途退職した。定年退職まで2年半を残しての中途退職であった。この記事で紹介されるがん患者の「働く意欲」そして「職場環境を自ら変えるという姿勢」からみると、ある意味「落ちこぼれ」ということになる。
ただ、発病から15年間生き延びることができた経験から、中途退職した私の決断は「正解」だったような気がする。中途退職したことで、体力的そして精神的な負担から解放され、十分な病気療養をすることができたと考えるからだ。この療養期間なくしては、現在の私のような「健康」な状態に復帰することはできなかった。
抗がん剤治療を入院治療ではなく、外来で行うといった流れは私の入院時あたりから盛んになったような気がする。外来で、定期的な抗がん剤治療を受けながら仕事を続けることを可能にするような就労環境を整えることの大切さも、当時から、議論されていた。
しかし、抗がん剤治療を経験したものとしては、働きながらの抗がん剤治療というのは、そう簡単なことではない。職場復帰ということより、命を大切にするための努力のほうを優先すべしというのが私の思いだ。問題は療養を可能にする経済的な裏打ちの有無。そのための病に備える準備を整えることが重要だ。さらには、病気治療に専念できるような患者に優しい社会保険制度を充実させることも重要と考えるが、いかがだろう。
この記事に併せて、「がん発症なら離職」3割超 雇用環境整備道半ば」とのデータも示されていた。このデータは、国立がんセンターが発表したもので、「がんになったら仕事を辞めなければならないと考える」ひとが3割超いるとしている。このデータ、がん患者に対するアンケートのデータではなさそうだ。がん患者に対するアンケートだと、より多くの割合のひとが、がんになったら仕事を辞めなければならないと考えるに違いない。
抗がん剤治療を受けながらの就労は、頭で考えるほど、簡単なものではない。極論すれば、命を削りながら就労するくらいの覚悟が必要だ。命を削るだけの価値ある仕事についているなら、がんになっても働いた方が良い。私には、当時の仕事に、命を削るだけの価値を見出すことはできなかったということだった。