福島第一事故は「手順書」に誤りがあったから?!

September 12, 2012 – 11:59 am

朝日(9月7日付け)の「私の視点」に豊田正敏・東電元副社長による「原発事故対策 実証実験で手順書の確認を」とタイトルされた(投稿?)記事がでている。この記事の主要な論点・提案は、「(過酷事故対応の)手順書を実際の原子炉で実証試験」できるよう法令の改正を行うべきというものだ。
過酷事故対応の手順を実炉で実証しようなんてトンデモない提案とは思うが、それはそれとして、福島第一事故が「手順書」さえきちんとしていれば防げたとも思える主張に興味を持った。
メモしておいた。

朝日の記事関連部を以下転載:

福島原発の事故は、全電源喪失というシビアアクシデント(過酷事故)時の手順書に誤りがあり、手順書通りに対応しても、事故は防げなかった。

全電源喪失への対策としては、「原子炉を冷やす」と、「放射能を閉じ込める」が必要だ。「原子炉を冷やす」には、高圧系の注水設備(HCICやHPCI)で原子炉に注水するとともに、できるだけ早い段階で原子炉圧力を下げ、消防ポンプによる代替給水に切り替えて水位を保つ。これで燃料の溶融を防ぐことができる。
「放射能を閉じ込める」には、全電源喪失によって格納容器の圧力や温度が上がった場合、ベントを確実に行い、圧力や温度を下げる必要がある。福島原発では、ベントが確実におこなわれず、圧力、温度が高いまま推移して格納容器の配管の一部が損傷。漏れた水素が爆発し、大量の放射性物質がバラまかれた。

全電源喪失対応の手順書が存在した?: まずこの記事を読んで不可解に感じたことは、そもそも全電源喪失に対応するための「明確な」手順書が存在したのか?ということだ。事故対応の「手順」は対応に供する諸設備・条件を前提とする。そうした諸設備が供せられないもとで「手順(書)」の瑕疵をどうこう議論してもしょうがない。

「手順書どおりに対応しても、事故は防げなかった」で議論されている手順書とは何をさしているのだろうか?よく理解できない。

全電源喪失といった想定してない事態の発生に際しては、手順云々というより、運転当事者の原子炉システムに対する知識、諸設備の特性に係わる深い理解に基づく「創造的な」対処を期待するしかない。こうした「創造的な」対処が有効であるかどうかは、ある意味「運を天に任せる」といった性格のもので、非常に大きな危険を内臓する原子炉システムの事故的状態への対処をこうした運転当事者の「創造的な」対処に委ねることはナンセンスだ。

対処方策は存在した?: 手順書が存在したかどうかは別にし、記事では上記に転載したように、事故への対処方策が示されている。「原子炉を冷やす」「放射能を閉じ込める」といった部分だ。

事故から1年半過ぎたところ、事故原因についての調査結果が公表されている。こうした調査報告書を読んでみて、まさに運転当事者が「原子炉を冷やす」「放射能を閉じ込める」ということで、大きな制約のもとで努力されていることが読み取れる。残念ながら、そうした努力にもかかわらず、壊滅的な事故となってしまったのだ。

事故直後、私は、自分の感想を次のように書いた

非常用電源(バッテリー)も含めて電源がないということになると、原子炉の状態を知るための計装設備も使えないということになる。東京電力では、こうした事態(計装設備がダウンした)事象の発生に対処するための事故対応訓練を行っているとの話を聞いたことはある。そんなことが可能なのか、と不思議に感じたことを記憶している。
原子炉の運転は、一言で言ってしまうと(多少乱暴ではあるが)、ポンプとバルブを操作することにつきる。ポンプ、バルブの動作の大部分は電動だ。一部のバルブについては手動で動作させるが、特別なものだ。電源を欠いた状態では、原子炉炉心の適正な冷却は期待できないはずだ。冷却は自然循環に頼らざるを得ないが十分でないと考えた。(福島第一の原子炉について、実際にどうなのかは詳しくは知らない)

一年半たっても、以前書いたものと、基本的な考えは変わってない。私にとっては、具体的な対処方策を見出すことはできない。

原子炉再稼動の可否は?: 豊田正敏は、同じ朝日の記事上で、次のようにも述べている:

東京電力福島原発の事故の検証が不十分で、原発の安全性を確認できていない段階で、信頼が地に落ちた原子力安全・保安院がつくった暫定的安全基準により、素人の閣僚が安全だ、と判断して大飯原発を再開させた。これについて大多数の国民が疑問を持っており、(国民大多数が2030年の原子力発電の割合を「0%」としたのは)当然の結果といえる。まず再発防止策を確立したうえで、国民から意見を聴くべきである。

そもそも「((全電源喪失といった)過酷事故対応の)手順書を実炉で検証」なんて無理な主張をするのは、原子炉再稼動には無理がある、ということを原子力業界の重鎮自身が吐露したことなのか?なんて思ってしまう。

やはり無理だな。原子力。


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