「就業者数と労働生産性」の推移を眺めてみると・・・
May 12, 2009 – 7:41 pm昨日の日経(5月12日朝刊)の「経済教室・ゼミナール」になるほどと思わせる経済統計がでていた。1955年から今日までの我が国の「就業者数と労働生産性」の推移だ。これを見ると、最近の産業構造の急速な変化が大変な事態を招いているのを、私のような全くの素人にとっても、よく理解させてくれる。メモしておいた。
日経の解説記事は、「経済教室・ゼミナール」の「雇用危機を読み解く⑩・内需型へのシフト」だ。このなかに、厚生労働省の「労働経済白書」(2008年)を出所とする「就業者数と労働生産性」という上の図が掲載されている。全くの素人の私でも、わが国の産業構造がこの50年間で急速に変化し、かなりのゆがみが生じていることが理解できる。
早速、ここで引用されていた「労働経済白書」の該当部分を探してみた。「労働経済白書」の第3章(雇用管理の動向と課題)の第3節(産業・職業構造の変化と今後の課題)に、新聞記事に掲載されていた図(3-(3)-2図)が見つかった。
ただ、白書に示されている図では、製造業とサービス業のほか、卸売・小売業の推移についてもプロットされている。
この図で最初にわかることは、80年~90年代にかけて、製造業とサービス業の労働生産性の違いが急速に大きくなってきていることだ。80年以前は、サービス業労働生産性が製造業のそれに比べ高かったのに、それ以降、製造業で急速に生産性を高めて行くのに対し、サービス業のそれは停滞している。一方、就業者数をみると、労働生産性の停滞するサービス業で多くなり、製造業では若干少なくなっていることがわかる。
労働生産性とは何だ?:ところで、一体、この図に示されている「労働生産性」とはどのように定義されるものなのか?白書の図に付されている(注)には、「労働生産性は実質国内総生産(産業別)を就業者数で除したものとした」となっている。私の素人的解釈では、就業者ひとりあたりの生み出す「価値」とでも考えればよいのだろう。
だとすると、「人の生み出す価値」が産業分野で全く異なってしまってきており、その傾向は、今後も続いてゆくということになる。そして、「生み出す価値」の高い(価値ある人間の)人口は変化しない(むしろ減少する)が、「価値を生み出さない人間」の数はどんどん増えて行く、というとんでもない話しになっている。
そもそも「価値」とは何なのか?ということを議論しなければならなくなってくる。就業する産業分野が異なることで、ひとりひとりの人間の生み出す「価値」が異なるなんていう事態は、わが国の産業構造がいびつになってしまっているということにほかならない。
こうしたいびつな産業構造を生み出しているのは何だろう?ひとつは、「科学技術の発展」を背景とする技術革新の効果ということが言えるのかもしれない。技術革新により、製造業の生産性を急速に高めた。結果、就業者ひとりあたりの生産性が高まったのだ。一方、サービス業としてくくられる産業分野では、こうした科学技術の発展がその生産性の向上に、ほとんど寄与してこなかったということだろう。
さらにもうひとつ、製造業における競争の激化、特に最近のグローバル化を背景とした競争の激化、そして過度な合理化による人員の削減ということも忘れてはならないだろう。
経済統計、「就業者数と労働生産性の推移」は、わが国が現在抱えているさまざまの問題を考える際に、これを構造的な問題として捉えねばならないということを示している。
ともあれ、「労働経済白書」って、かなり勉強になることに気づいた。少し、まじめに、経済学の勉強をしなければならないような気分にさせてくれる。