アルキメデス「テコの原理」の証明

May 27, 2009 – 5:10 pm

もう半年以上前に「ガモフによる『アルキメデスの原理』の証明」を書いた。例の「浮力」についての話だ。同じアルキメデスには、もうひとつ有名な「テコの原理」の証明の話がある。最近、武谷三男著「物理学入門 -力と運動―(上)」を読んでいて、この「テコの原理」の証明について書かれている部分を見つけた。「浮体の原理」だけでは、片手落ちだということで、この「テコの原理」の証明についてもメモしておくことにした。

武谷三男の「物理学入門(上)」は岩波新書として、昭和27年4月10日に第1刷が発行されており、私の本棚にあったのは昭和43年発行の第23刷だ。すでに、絶版になっている。最初にこれを読んだのは高校3年生のときで、私が大学で物理学を学ぶことにしたのはこの本の影響を受けたということもできる。

この本は上巻となっているものの下巻は存在しない(はず)。当時いろいろ探してみたが見つからずがっかりしたことを憶えている。

ほぼ40年ぶりに読み、当時、何回も読んだ筈なのだが、初めて読んだと思うようなところも多い。いまになって、やっと、書かれている意味が少しは分かるようになったのだろう。読み直してみて、「科学とは何か」について、この書から学ぶところが多いと感じた。

武谷三男の「方法論」「科学論」については、おいおい考えることにして、このエントリーでは、表題のアルキメデスの「テコの原理」について書かれている部分を(多少長くなるが)抜粋しておくことに留める。

アルキメデスの「テコの原理」に関する部分を、多少長くなるが、以下抜粋する:

アルキメデスは、その著「釣合について」にテコの原理に関して面白い証明を行っている。これは、天秤のように両腕の長さが等しい場合だけでなく、棒秤のように両腕の長さがちがう場合の、重量と距離の関係を証明するものである。テコの棒は一様で、ついでに重さがないとすればなお議論がしよい。アルキメデスはその出発点において、つぎのa、b、という二つの仮定を自明なこととして採用している。

a 支点から相等しい距離で作用する相等しい重量は釣り合う。
b 支点から異なった距離で作用する相等しい重量は釣り合わずに、距離の大きい方のものが下る。

この二つの仮定から、つぎの法則を導きだすのである。「ふたつの物体の重さを棒秤で比較する場合に、その重量が支点からの距離に反比例する場合に釣り合う。」

e382a2e383abe382ade383a1e38387e382b9efbc90efbc91 アルキメデスは、この証明をつぎのようにして行った。まず第1図のように、1の重量のものを棒の両端にぶらさげ、その棒の中央でつるせば、これは1の二倍の重量2と釣り合う。すなわち1を一つ棒の両端につるすことは、その棒の中央でつるせば、これは1の棒の両端につるすことは、その棒の中央に二倍の重量をつるしたのと同じ作用をする。

e382a2e383abe382ade383a1e38387e382b9efbc90efbc92 つぎに第2図に示すように、支点からの腕の長さの比を1:2として、長い方に重量1を短いほうに重量2をつるす場合を考えてみよう。この場合、第1図の場合に従って、重量2をつるすかわりに、図の点線で書いたように2の両側に重量1を二個つるしたのと同じである。ところで、その一つの重量1は丁度支点の所にくるので、釣合とは無関係になる。そして、も一つの重量1は支点からの距離は、最初の重量1と同じ距離であるので、aによって釣合うことになる。

e382a2e383abe382ade383a1e38387e382b9efbc90efbc93テコの原理 この結果をいいかえれば、支点からのLの距離で、棒に直角の力Pを加えれば、その棒を動かす効果は積PLであらわされる。この積は今日力の能率という名でよばれている。これがテコの原理であって、テコは、動かそうとする重い物体を支点の近くにおいて、手の力を働かす所を支点から遠い所におけばP1L1=P2L2であって、P1の力をL1のところに加えると、支点からL2の所にはP2=P1×L1/L2すなわちP1のL1/L2倍の力が働くことになる。それで、L1をL2に対して大きくすればするほど、P1が小さな力であっても、非常に大きな力P2を得ることになる。・・・ (pp.46-49)

以上が「物理学入門(上)」において、アルキメデスの「テコの原理」の証明を紹介している部分だ。但し、この書では旧漢字が使われているが新漢字に書き直している。

この証明は、前の「浮体の法則」のときのガモフ全集の別巻「現代物理科学の世界(上)」にも書かれている。私には、ガモフの説明より武谷三男の記述のほうがすんなり受け入れられた。

『テコの原理』証明に対するマッハの指摘(批判): アルキメデスの「テコの原理」証明は、上記抜粋部分なのであるが、「物理学入門(上)」では、これに対する(マッハの)批判的なコメントが紹介、議論されている。この部分、「自然科学とはどんなものか」を考えるうえで重要なことが述べられている。以下、同じく抜粋。

ところで、先のアルキメデスの証明について、一言しなければならない。それはアルキメデスは、一見自明な先験的な対称の理から出発しているようであるが、仮定a、b、も決して先見的なものでもないし、また、証明も必ずしも反対をいれないものではないことである。これはマッハがその著「力学の歴史」で指摘していることである。

 すなわち、テコの各部分の色やその他の異なり、及び観察者の位置やその他の周囲の状態がこの釣合に影響を及ぼさないという保証は先験的にはないのであって、物理学の他の問題においては実際、このようなことが影響を及ぼすこともあるのである。このような環境の変化が、如何なる影響を及ぼすかは経験的に得られるべき知識である。さらに、重量のほかに、支点からの距離が釣合に関係するということも先験的には決らないことであって経験法則である。

 その証明においても、マッハが指摘するように、軸からの距離Lと、重量Pの積PLでその効果が表されるという結論には、初めから、Lが一次で入ることが仮定されてあって、L2やL3・・・一般にLの或る函数f(L)という場合にも、対称という要求にはさしつかえはない。

 このような欠陥は経験を蔑視した。形而上学的なギリシャ人の態度に起因しているが、この証明法の影響は、ずっと後の人にも及んで、無批判に継承されたことは、一つにはアルキメデスの偉大さによっている。(pp. 50-51)

このあたりのところガモフによる説明には出てこない。「科学的」の思考方法とはどのようなものか、具体的に指し示してくれているように感じるが、いかがだろう。


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