JALの年金給付引き下げの議論はおかしな話だ!

November 7, 2009 – 12:42 am

日本航空再建のためには特別な法律を作ってでも企業年金を減額すべしという議論が進んでいる。国が再建支援するためには、公的資金を使って救済するのだから、「多額の」企業年金を受けている日航OBは、年金減額を受け入れるべき、という話だ。もっともらしい話に聞こえるが、こんな話が成立したら、年金制度全体を壊すことになる。私は、断固、反対だ。


毎日JPに次のような記事がでていた:

日本航空:年金支給額のモデルケース 月額最大48万円  経営危機に陥った日本航空の年金の支給額がモデルケースで月額最大48万円と、同業の全日本空輸の同31万円を大幅に上回っていることが5日、政府の内部資料でわかった。・・・
日航の年金支給額が最大の48万円(うち5万円は本人が掛け金を負担)になるのは、退職金1700万円を選択した場合で、内訳は企業年金が25万円、国民年金・厚生年金が計23万円だった。退職金を最大の3650万円受け取った場合は、年金は公的年金の月額23万円のみとなる。

JALのOBが受けている年金が多額であるとの議論がある。しかし、この内訳を眺めてみる限り、普通の大手の企業の退職者が受けているものとそんなに変わらないというのが私の感想だ。

私の理解では、問題となっている企業年金の25万円のうち、5万円は本人の掛け金、残りの20万円は退職金2000万円の積み立てに対応するものということになる。

「全日本空輸の31万円と比較し日航の年金が48万円と大幅に上回っている」との記述については、全日空の年金の内訳が示されなければ、単純に比較することはできない。内訳抜きで、日航の年金が高いというのは、ためにする議論だ。

年金・退職金債務の積み立て不足が3042億円発生しているという。この積み立て不足を「解消」もしくは「軽減」するために、「OBの皆さん給付引き下げを認めなさい」ということのようだ。

つまり、日航の年金受給者は、「認めないと、国からの支援を受けることができなくなり、日本航空自体が潰れてしまい、あなたがたの年金は全くお支払いできなくなってしまいます。」と会社(日航)から恫喝され、政府からは、年金を削減できる特別立法を検討している、と脅されている。

確定給付企業年金法の施行規則では、年金受給者の三分の二以上の賛成がないかぎり、こうした減額はできないことになっている。この年金法の取り決めは、今回の日航のような理不尽なことが起きないようにするためのものだ。政府は、この取り決めを、特別立法を作ってでも反古にしようとしているのだ。

こんな滅茶苦茶な話を、社民党の辻元清美なんてのが、日本航空再建対策本部事務局長として、お先棒を担いでいるのを見ると、情けなくなる。社民党って、ちょっと前まで、労働者の味方だったのではないか?日航の高給取りは、労働者として守るに値しないとでもいうのだろうか?

こんなことが許されると、今回の日航だけでなく、企業年金の仕組み自体が否定されてしまうことになる。我々、年金生活者全体にとっての大問題だ。

日航の年金の内訳についての私の理解が正しいとすれば、企業年金として受給する月20万円は、退職時に受け取らなかった退職金2000万円の代わりに支払われるものだ。

この2000万円に対し月20万円の企業年金を支給するためには、当然、市場金利より高い金利(おそらく前のエントリーで触れた年4.5%)が前提とされており、この金利の高さが「年金・退職金債務の積み立て不足」をひきおこしたということになる。

日航のOBにとっては、高金利が約束されていたので退職金を受け取らないで企業年金の受給を選択したのに、「設定金利が高すぎたため約束は守られません」と言われた、といったところだろう。ある種の詐欺的行為だ。

挙句の果てに、自分たちを守ってくれるはずの政府が、特別立法を作ってでも、この約束を反古にしようというのだからたまらない。「詐欺ではないか」と思ったら政府もその仲間だった、ということになってしまう。

今、日航のOB、社員を叩くのは簡単だ。「現役時代は、高給とり。退職したら、高額の年金。会社が潰れそうなのに、自分の身を守るために、法外な年金を受け取る」といったところだろう。

しかし、だ。日航のOB、社員を叩くのは、年金のしくみを自ら壊すということになることに気づかねばならない。日航の年金の内訳を見ると、そんなに法外なことが行われているとは思えない。企業年金の仕組みからみて標準的なものなのではないか。

さらに、もうひとつ言いたい。日本航空に対し、採算も取れない路線を無理強いしていたのは誰だ。日航の社員を叩けばいいというものではない。前回エントリーで書いた静岡県知事の発言をみれば、そのあたりのことが理解できるだろう。

日本の航空行政の滅茶苦茶さを棚にあげて、日航の経営そして社員だけを問題にするというのは、おかしな話だ。

わたし、年金生活者のひとりとして、微力ながら、日航のOBのみなさんを応援したい。

がんばれ、日航のOBのみなさん!


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