電子政府はどこまで進んだのか(e-Tax体験記)

February 8, 2007 – 11:35 am

 情報通信技術、IT、の進歩には目を見張るものがある。一般家庭に家電製品と同様に普及したパーソナルコンピュータの演算能力は、20年前に最先端といわれたスーパーコンピュータをはるかに凌ぐ。インターネットの登場と普及は、我々の生活様式すら一変させようとしているといっても過言ではない。

こうした情報通信技術の進歩を受けて、2000年には、政府によるe-Japan計画なるものがスタートした。それから7年が経過した。e-Japan計画の目玉のひとつ、電子政府、なかでも我々の身近にある電子申請の現状はどのようになっているのか?電子申請では、我々国民(住民)が、国もしくは自治体の窓口に出向かうことなく、各種の申請を自宅のパソコンで可能とするとされている。

我々、一般国民がその利便性を実感できる仕組みのはずである。果たして現状はどうなっているのか?

電子申請を利用すると、「24時間365日 自宅や職場のパソコンからインターネットで様々な行政サービスが利用できる」とされている(電子政府・電子自治体体験用HP)。電子申請が可能なものには、不動産登記、パスポート申請、住基カード、確定申告(e-Tax)、会社設立にあたっての商業・法人登記申請などがあるようだ。しかし、日本経済新聞(1/9付け)によると、電子申請のひとつ「e-Taxによる申告が低迷しており、国税庁が利用率アップに躍起になっている。」とされ、「2004年度に運用が始まったが、手続きの煩雑さなどもあって05年度分の利用は1%未満。・・同庁が掲げた「10年度に50%」というハードルを越すのは難しそう」と、電子申請の仕組みが危機に瀕していると報じている。国税庁は、確定申告による還付金の受け取り期間を通常の6週間を3週間に短縮するとか、受付時間を期間中は24時間の受付け、2007年度からは医療費の領収書などの添付書類はパソコンで数値入力できるようにするなどの改善策を講じるなどして、この普及に力を入れているようである。電子申請の普及に何が障害になっているのか?実際に、e-Taxを利用して確定申告をすることにした。

住基カードの取得:e-Taxを活用するには、まず、住基カードを取得することが必要だ。住基カード(住民基本台帳カードの略称)は、ICカードであり、インターネット上で本人確認ができるもの。その概要は、総務省のHPのなかの「住民基本台帳ネットワークシステ� 」に説明されている。

住基カードは、市区町村の窓口で500円の費用で発行してくれる。村役場に出かけ、これを申請取得した。

窓口で、申請用紙に必要事項を記入し、申請すると、10分くらいで、すぐにカードが発行された。発行されたICカードを窓口に置かれたICカードリーダで4桁の暗証番号を登録し、取得手続きは完了。

公的個人認証サービス:インターネット上で本人確認をする仕組みとして公的個人認証サービスがある。住基カードは、この公的個人認証サービスの電子証明書や秘密鍵を保存するカードとして活用できるものである。

住基カードを取得するだけで、e-Taxの利用に必要な認証サービスが受けられると思っていたが、この公的個人認証サービス、住基カードのICカード機能を活用するものであり、カードの発行を受けたのちに、有料(500円)で、電子証明書の申請をすることが必要だ。この事実、村役場でパンフレットを見て初めて知った。申請にあたって、認証サービス用の暗証番号を登録し、手続きは終了する。

実際の手続きの途中、村役場のPCがフリーズするなどのトラブルにも見舞われた。村役場の職員の手元を見ていると、おっかなびっくり、このサービスが普及していない一面を垣間見ることになった。

もうひとつ、村役場で申請時に明らかになったこと、電子申請をするにあたっては、申請をする行政組織に対して、手続きが必要とのことである。e-Taxを利用するためには、税務署に対して、電子申請をするための手続きが別途必要なのである。電子申請の活用は、予想外に敷居が高い。

ICカードリーダライターの購入:自宅からインターネットを介して電子申請をするためには、住基カード内のデータを読み書きするICカードリーダーライターが必要だ。村役場に住基カードの取得手続きをした際に、「ICカードリーダライターの販売状況について(16年7月現在)」と「適合性検証済みICカードリーダライター一覧」なるふたつの書類を受け取った。最初の書類には、近所の電気店(ケーズデンキ)と「販売サイト」として「公的個人認証対応ICカードリーダライター販売促進協議会ホームページ http://www.jpki-rw.jp/)が紹介されていた。

ICカードリーダライターには、公的個人認証対応のカードリーダがあるらしい。カードリーダライターに、単にお役所のお墨付きが必要ということなのか、それとも公的個人認証の仕組みに適合したカードリーダライターが特別にあり、それを必要としているのか分からない。この世界、もっと標準化が進んでいると思っていた。普及途上の電子申請システム、ましてや一年に一度の税金の申告のために特別な装置を購入しなくてはならないとはおかしな話である。

ともかく、カードリーダライターの一覧表をかかえて、近所の大型電気店「ヤマダ電機」にでかけた。売り場を探しても、そのようなもの見当たらない。店員に聞くと、一覧表にはないSONY製のカードリーダを教えられた。「住基カード用に使えますか?」と聞くと、「何ですかそれ?」という答え。殆ど、電器屋さんレベルでは商売にならない商品のようである。

次に、村役場でもらった「販売状況」なる書類に紹介されている電器店ケーズデンキにでかけ、やっとのことで購入できた。販売していた機種は日立製作所製Model HX-520UJ.J(Made in China)である。みすぼらしいダンボールの箱に入った商品で、ほとんどお役所さんにお付き合いで置かせておいていただいてますという感じ、一生懸命売っている気配を感じない商品であった。これが電子政府計画の目玉、電子申請システムの末端の真実らしい。

因みに、購入したカードリーダの価格は2,890円、最安値の機種であった。

e-Tax開始の届けと利用者識別番号の取得: e-TaxのHPで開始届出書類を作成し、インターネット経由で送付した。届出書類は、pdfの入力フォームが準備されている。これに住所、納税地など必要事項を入力し、オンラインで送付した。これで、e-Tax用ソフトと利用者識別番号、暗証番号などが、税部署から送付されてくることになっている。その前に、税務署による、書類の審査が行われるらしい。

 届出書類を送付した数日後、所轄の税務署より電話。何だろうと思うと、「e-Taxの開始の届けを頂きましたが、手違いで送付が遅れますので、了解してください。」とのこと。急ぐくものではないので、「はい、結構です。」と返答。その後、届出をしてから21日間たって、やっとe-Tax用ソフトなどが送付されてきた。なんとも遅い。電子版役所の非効率というところか?

e-Taxソフトなど必要なソフトのインストール: 必要な道具立てが全て揃ったところで、我が家のパソコン上に必要なソフトをインストールすることにし、e-Taxをするために必要な環境を整えた。これまでに関連するソフトが格納されているCD-ROMとして次のものがある;
ドライバーソフト・インストール マニュアルCD-ROM (ICカードリーダライタ付属品)
公的個人認証サービス利用者クライアントソフト
国税電子申告・納税システム利用者ソフトウェア(e-Taxソフト)
インストール作業は特に困難もなく進めることができた。通常のソフトのインストールと大差はなかった。これで、電子申請の準備は整えることができた。やっと税の確定申告のスタートラインに着くことができた。結構、長い道のりと感じた。

わが国で電子申請は本当に普及するのだろうか?: 実は、この記事を書いている現時点では、まだ、確定申告を済ませてない。e-Taxの利用環境を整えたに過ぎない。単に利用環境を整えるだけで、大変な労力を費やしてきた。システムが煩雑を極めており、とっても一般に普及することは無理との印象を受けた。この記事の冒頭に書いたように、国税局は、2010年までに、税申告の50%はe-Taxで行う計画という。その実現は無理なのではないか。かなり疑問に感じる。

 確定申告を行うためには、さらに領収書など添付書類を整え、郵送することが必要である。添付書類を整える過程で、税務署になんどか問い合わせをする必要が生じた。応対にでた税務署職員曰く、「こうやって電話で話しているわけですよね。e-Taxで効率化できるとは・・」と、e-Taxシステムの普及には懐疑的な発言すら聞いた。確定申告会場で相談すれば、即座に解決することが多いに違いない。電子申請システムの導入は、少なくとも現状では、屋上屋を重ねるということになっているのではという印象を強く持つ経験であった。


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