福島第一事故による放射線被曝をどう考えればよいか(その3)
May 10, 2011 – 3:11 pm「茨城県環境放射線監視センター」のホームページで福島第一事故発生以降の(空間)放射線量率の推移を知ることができる。事故にかかわり、我々一般人がアクセスできる貴重な情報だ。自分の居住する地域の放射線レベルの推移を把握することで、かなりの程度、自分のおかれた状況を理解することができる。
空間線量率の推移: 下の図は、監視センターのホームページに公開されている3月11日の事故発生から一昨日(5月8日)までの茨城県東海村に設置されているモニタリングポストで測定された放射線量率の変化を示す図だ(http://www.houshasen-pref-ibaraki.jp/file/20110508tokaigraph.pdf を転載)。測定地点は、事故をおこした福島第一から直線距離で約120km南南西の位置にある。
この図から、
- 事故発生から2週間の間に数回にわたってスパイク状に線量率が上昇
- スパイクのあと、放射線量レベルがそれ以前のものを底上げするように増加
- 2週目以降は、線量率のスパイク状といった急激な変化は認められず、徐々にレベルが低下している
- 2ヶ月たった今日時点では、事故発生前の2~3倍のレベルに高止まりし、ほとんど変化していない
といったことが読み取れる。
スパイク状の上昇は、モニタリングポスト近辺を福島第一からの放射性プルーム(雲)が通過した際、プルームに含まれる放射性物質からの放射線(ガンマー線)を観測したものと推察される。この図に現われた最初のスパイク状の上昇は3月15日午前7時に観測されたもので、ピーク値で約3.5μGy/hrとなっている。
このスパイクの後に続くテールの部分は、プルーム中の(希ガスを以外の)放射性物質の一部が地表面に沈降・沈着したのち、これから放出された放射線が観測されたものと考えられる。
地表面に沈降・沈着した放射性物質には、主に、I-131、Cs-137が含まれていると考えるのが自然だ。よく知られているように、I-131の半減期は8日、Cs-137のそれは約30年である。
テール部分の変化を見ると、線量率の減少はスパイク状の上昇ピークの後は比較的速く、ほぼ2ヶ月経った現在では、ほとんど変化していない。地表面に沈降・沈着している放射性核種の組成の分析結果を見ないで結論づけることはできないが、初期の成分はI-131からの放射線の寄与が大きく、最近はCs-137の寄与が大きくなっていると考えてよいだろう。
地表面の放射性物質からの被曝は、主として、3つの経路を考えるべきと考える。
- 地表面から放出される放射線による(外部)被曝、
- 地表面の放射性物質がまいあがり、これを吸い込み(呼吸摂取し)内部被曝する、あるいはまいあがった放射性物質から放出される放射線による外部被曝。
- 地表面に沈降・沈着した放射性核種が飲料水、野菜など経由して取り込まれる(経口摂取)
必要なモニタリングデータ: 被曝線量を精度よく評価するには、夫々の被曝経路に対応したモニタリングデータが必要だ。まず、外部被曝線量については、モニタリングポストの値を使うことでいいのではと思う(家屋の遮蔽効果は考慮する必要はあるが・・)。
次に、放射性物質のまいあがりの部分を考慮しなければならない。まいあがった放射性物質による外部被曝線量分は、モニタリングポストの測定値に含まれているので、呼吸による摂取による内部被曝を評価することが大切になる。そのためには、「まいあがり」による空気中の放射能濃度を知ることが必要だ。
どうも、この空気中の放射能濃度の測定値を見かけない。かなり重要なものだと思う。ただ、「まいあがり」の大きさは地表面の状態に大きく依存することがあるので、測定に際しては、測定条件について十分な吟味が必要だとは思うのだが・・。
最後の経口摂取分、今後、Cs-137の食物中の濃度が大きくなってくるはずだ。このあたりについての測定値の公表が重要なのではと思う。
現在の空間線量率は、測定点によりばらつきがあるが、測定点のうち「東海村・村松」についてみると、今日時点で130nGy/hrとなっている。これは、事故発生前のバックグランド50nGy/hrの2.6倍である。今後、地表面のCs-137は、地中深くに移行するとか、雨水で流されるなどにより減少し、それにともない空間線量は徐々に低下してゆくが、短期間では大きな変化は期待できず、しばらくは、このレベルは維持されるであろう。
逆に、地表面のCs-137の移行などにより、飲料水、食物への取り込みなどが予想されることから、これら食品等の監視を強化する必要があるものと考えられる。
因みに、現在の空間線量のレベルが1年間続くということになると、今回の事故的な放射能放出による年間被曝線量寄与分は、
(130 – 50) × 365 × 24 = 700800 (nSv/yr)
単位をmSv/yrとすると、0.7mSv/yr となる。
公衆にたいする基準値 1mSv/yr を若干下回ってはいるが、基準値近傍に高止まりしていると考えるべきであろう。
さて、どうすればいいのか?:これだけ、我々の住んでいる環境が汚染されてしまっていると、いまさらバタバタしてもしょうがない。表現は悪いが、「放射能との共存」を考えねばならない。
できるだけ、自らの生活パターンを見直し、個々人が被曝線量を低下させるための工夫をすることが求められる。
被曝線量はできるだけ低いにこしたことはない。
「この測定値は健康上の影響はありません」なるキャンペーンはいただけない。
基準値1mSv/yr近傍にたかどまりしているんだものね
1 Trackback(s)