福島第一事故による放射線被曝をどう考えればよいか(その10)

February 2, 2012 – 10:31 am

昨日の東京新聞(2月1日朝刊)に「被ばく基準緩和 NHK番組 原発推進団体が抗議」なる記事がでていた。記事のリード文を以下転載:

 NHKが昨年末、国際的な低線量被ばくのリスク基準が政治的な判断で低く設定されたという内容の番組を放映したことに対し、原子力発電推進を訴える複数団体のメンバーらが「(番組内容には)誤りや論拠が不明な点、不都合な事実の隠蔽(いんぺい)がある」として、NHKに抗議文を送っていたことが分かった。

この抗議文、「NHK総合テレビ 追跡!真相ファイル番組(2011年12月28日放映)『低線量被ばく 揺らぐ国際基準』への抗議と要望について」と題するもので、全文ネット上に公表されている。この抗議文は、NHK松本正之会長あてに出されており、金子熊夫(エネルギー戦略研究会(EEE会議)会長)他2名が代表となり賛同者をあわせて総勢112名により送られている。

原子力業界では著名な人々が、代表/賛同者として名を連ねている。私を含めて、この業界で働いた経験を持つものであれば、誰もが名前を知っている方々だ。福島第一の事故から1年を経過しようとするこの時期に、こうした原子力業界に大きな影響力を持つ方々が声を大にして抗議しようとする事態は、尋常ではない。

抗議の対象とされているNHKの番組は、私自身も視聴していた。視聴した際の印象、表現は悪いが「トンデモ番組」の類といったところ。大NHKがこれでは困る、と確かに思った。この番組について学習院大学の田崎晴明さんが、かなり詳細に批判をしている。どちらかというと、私は、田崎さんの批判にうなずくところ大だ。

しかし! 抗議文に対する印象を述べさせていただくならば、抗議文に名前を連ねている原子力業界を代表する方々が、福島第一事故の発生に対してどのような立場をとられているのか不明なのは誠に残念だ。この方々、原子力業界の「重鎮」ではありそうだが、私の知る限り、かならずしも放射線の健康影響に詳しいかたがたではない。

番組内容にかなりの問題があることは理解できる。残念なことだ。しかし、だ。こうした「偏向」番組をすんなりと国民が受けいれるような雰囲気・状態、すなわち福島第一の大事故の発生という状態を作ったのは、ほかならぬ抗議文を送りつけた原子力業界の「重鎮」の皆様であったのではないか。

こうした抗議文を送りつける前に、原子力業界の「重鎮」の皆様による福島第一事故に対する深い反省と、原因を究明しようとする真摯な態度こそが必要なのではないか、と思うのである。

この抗議文を読めば読むほど脱原子力への思いを強くしてしまう。


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