乾 康代著「原発都市 -歪められた都市開発の未来-」をななめ読み
May 7, 2019 – 11:40 am本書を近所の図書館の原子力関係書籍棚でみかけた。発行日が2018年10月2日と新しいということにひかれて読んでみた。
著者の主張は、「あとがき」の一節に代表されるように思う。以下、関連部を転載:
私は、長く奈良と大阪に住んでいたが、水戸にやってきて、初めて東海村を訪れた時、原発周辺になんのバッファーゾーンもなく村民の居住地があまりにも近くまで接近しているのを見て心底驚いた。ここは、大変危険な都市開発をしてきたところだと思った。どのようにして、このような危険な都市づくりが可能になったのかを知りたいと思った。(p.176)
8年前に発生した福島第一事故後に出版された「反(脱)原発本」のひとつだが、導入部として被災地浪江町を取り上げるものの、本書の中心は茨城県東海村の原子力施設(原子力発電所)に隣接するかたちで住環境が存在すること、そしてそのような状況が形作られたことに対しての憤りである。
本書を一読した印象をひとことで述べるとすると、原子力関連施設を多く抱える東海村の成り立ちと原子力発電所を誘致した福島県、福井県などの原発立地自治体を同一線上で議論することに違和感を感じてしまったというのが正直なところだ。
一応、斜め読みながら読み終えたということを記録するということで、以下、目次だけでも以下に残しておいた。
- 第一章 3.11被災地--浪江町の場合
- 第二章 東海村の原子力開発
- 第三章 東海村の都市開発の現実
- 第四章 原発誘致と地域社会の変容
- 第五章 ドイツ・ブブミンの地域再生
- 第六章 イギリスと日本、原発立地地域への支援
- 第七章 原発立地地域の再生へ
福島第一原発事故の後、「社会科学的」観点からこの事故の原因・影響の分析を目的とする数多くの「研究」が行われている。これら研究は、科研費その他研究助成を受けることによって実施されたものも多い。本書も、こうした研究助成を受けた研究のひとつのようだ。この種の研究には、当然のことながら、成果物としての報告書の出版が求められる。残念なことではあるが、研究成果の軽重とは離れたアリバイ的な報告書になることも多い。本書を一読した印象としては、失礼ながら、そうした傾向を感じてしまった。個人的な感想ではあるのだが・・・。