気になったニュース: 原子力規制委員会委員長の「冗談」発言
July 9, 2017 – 4:43 pm一昨日の朝(2017年7月7日)のTBSラジオ森本毅朗スタンバイで、原子力規制委員会の田中委員長の発言を取り上げ、これを全く理解できないものとして非難していた。
このニュースのヘッドラインは以下:
北朝鮮のミサイルに原発対策はどうなっているかと問われた原子力規制委員会の田中委員長が「東京のど真ん中に落としたほうがいいと思う」と発言し、そのあと不適切だったと発言を取り消しました。
どのような場面でこの発言があったのか?
日経電子版(2017年7/7)によると、「再稼働した関西電力高浜原発3,4号機が立地する福井県高浜町を訪れ、住民と意見交換」のなかで、「北朝鮮のミサイル攻撃を想定した対応を問われ」た際に飛び出した発言だという。
再稼働した原発に安全性のお墨付きを与えた責任者として周辺住民と「意見交換」したときのもののようだ。
田中委員長は、この9月に任期満了で退任することが決まっている。おそらく、自らが苦労して再稼働への道筋を作った規制員会委員長として原発周辺の住民に安全性をアピールするものと捉えていたのだろう。最終的な纏め作業のひとつかもしれない。
この意見交換会、おそらく、特には大きな対立点もなく和気あいあいとした雰囲気のなかで行われたものだったと想像する。緊張感なく飛び出した「不幸な」冗談発言なのだろう。
この発言に対する非難はどのようなもの?:
このニュースを報じていたTBSラジオ森本毅朗スタンバイのコメンテータ(伊藤洋一さん)の発言をまとめておくと以下のようなもの:
- 東京あるいは東京周辺に住んでいるものにとっては、とんでもない発言。どういう神経をしていてこういう発言をするのだろうと思う
- 北朝鮮に対し、まるで東京の真ん中にミサイルを落としてくださいといっているに等しい発言
- 報道陣に対して「不適切」ではないかと指摘され、「いや、不適切でした」と発言を撤回したのであるが、取り消せばいいというものではない
ま、何を言われてもやむを得ない。当然の反応だと思ってしまう。田中委員長の個人的な資質を問題にするものと感じる。
私の気になったこと:
何故、このような不規則な発言が飛び出したのか?
私には、少し違った感想がある。
「ミサイル対策」を問われた田中委員長には、質問した住民が納得するにたる答えを持っていなかったのでゃないかと疑う。「想定外」の質問に対し、これをはぐらかす、すり替える回答をしたのではないか、と思うのである。
北朝鮮からのミサイル攻撃に対しては、安全規制上、何の準備もないはずだ。朝日新聞デジタルでは、田中委員長の返答について以下のように報じている:
高浜町民約30人との質疑応答で、「ミサイル攻撃への対策は」との質問に、「原子力規制の範囲を超える」としつつ、「(敷地内での)大型航空機落下についての対策があり、相当の対応はできる」と説明。そのうえで、「小さな原子炉にミサイルを落とす精度があるかどうかよく分からない。私だったら東京都のど真ん中に落としたほうがよっぽどいいと思う。もう何万人、何十万人と住んでいるから」と述べた。
質問の趣旨は、「万が一の」ミサイル攻撃に対し、原子炉の工学的な準備はどのようになっているのか、ということだったはずだ。
これに対し、まず、「原子力規制の範囲を超える」とする。原子炉の安全対策上、ミサイルに対してはなにも対策をすることを求めていない、ということだ。いつもでてくる「エンジニアリングジャッジメント」というので、「想定外」ということがらだ。
「(敷地内での)大型航空機落下についての対策があり、相当の対応はできる」と答えている部分。私の知る限り、日本の原子力発電所は航空機が落下したときに対応できるだけの頑強さは持っていないはずだ。
航空機落下は、安全規制上どのように扱われているのか?公開資料をみると、その考え方について、規制委員会の更田委員による「地震・津波・航空機衝突対策」(日本原子力学会 平成27年9月11日)と題する発表で次のようにしている:
新規制基準での航空機衝突への対応
- 偶発的な航空機落下に対しては、事故時に大きな影響をもたらす可能性のある施設について、「実用発電用原子炉施設への航空機落下確立に対する評価基準を適用
- 意図的な航空機落下については、これも事故時に大きな影響をもたらす可能性のある施設について、可搬式設備等による対応並びに特定重大事故対処施設の設置を要求
この発表資料からみると、航空機の落下については、2段構えになっており、第一要件は、航空機の落下確率を評価し、落下確率が一定(10^-7(回/炉・年)以下になっているかどうかを確認する(一定以上の確率の場合は手当する)。次に、意図的な航空機落下、これは9.11のときのようなテロを考慮していると思うが、意図的な航空機落下で問題になりそうなところについては、あらかじめ対策をとっておくべし、という程度のものだ。
意図的云々というところについては、原子力発電所の構造体の頑強性(ぶつかっても壊れない)という話はしてないと思われる。壊れることがあるかもしれないので、一応の設備の準備とか事故対処施設などを準備しておきなさい、という程度の話しかない。
ミサイルという破壊を目的にする飛翔体に対する対策は、この意図的な航空機落下の延長線上で考えるべきものだろう。
多弁を弄しても、実効的な手当なぞできてない。
田中規制委員会委員長の発言は、くしくも、ミサイルへの対応は非常に困難であるとの考えを思わず吐露してしまった結果ではないかと考えた次第。
ま、以上は、あくまで、私の感想だ。
ミサイルに対応できるような頑強な原子力発電所なんてコストが高すぎて建設できるわけはない、というのは言い過ぎかな?