物理のない化学はなく、物理・化学のない生物・地学はない

December 6, 2008 – 2:14 pm

昨年公表された日本学術会議の報告に「科学・技術を文化として見る気風を醸成するために」というのがある。読んでみた。実にいい。いわゆる「理科離れ」問題について、実に的確に指摘していると思う。このブログ記事の表題「物理のない化学はなく、物理・化学のない生物・地学はない」は、この報告のなかの一節だ。以前、我がブログで、「高1で理系・文系を選択?」という記事を書いたことがあるが、そこで私の言いたかったこと、このあたりのことだ。

文化としての科学: 益川・小林の両氏が今年のノーベル物理学賞を受賞した。受賞がきまった直後、NHKスペシャルで両氏へのインタビュー番組があった。そのなかで、聞き手から「受賞した業績は何に役にたつのか」という意味の質問があったと記憶している。この質問に対する答え。まじめに答えようとすると、かなり難しい。この学術会議報告のなかに、この答えがあるように思う。以下、引用:

 考えてみると、科学は生活の向上をもたらす道具であるだけではない。何が真であるかを追求する点で文学、音楽、絵画と同じ創造精神あふれる文化でもある。文化とは、人間が自然に手を加えて形成してきたもの、あるいはcultivateしようとする活動の知的・精神的な側面をさす。物質的・技術的な側面が文明である。文化は、お金では測りにくいが、れっきとした価値をもっている。・・・・

そうなのだ。(自然)科学は『文学、音楽、絵画と同じ創造精神あふれる文化』なのだ。文学、音楽、絵画に対し、『何に役にたつのか?』などという問いが生じるはずはない。(自然)科学に対しても、こうした問いを発することができるとも思わない。

論理的思考の訓練の場としての科学: 以前に書いたブログ記事「高1で理系・文系を選択?」で、私は、次のように書いた。

物理とか数学は、物の見方、論理の組み立てなどを身につけるうえで基本的な教科だと思うのだ。いわゆる「文系」と呼ばれる分野が、むしろ「理系」としてくくられる分野より、もっと複雑な事象を取り扱うものなのではないかと思う。高校時代に、「理系」と呼ばれる分野の訓練をスキップしてしまうと、将来、「文系」としてくくられる分野で活躍することは、おぼつかないのではないか。

ここでは、物理とか数学が「論理的な思考を身につける」うえで重要な役割を担うことを強調したかった。この学術会議の報告、この点に関し、次のように述べている。少し長くなるが、以下、引用:

児童・生徒には、理科と数学をとおして論理的な思考の訓練をつませるべきである。それによって物事に積極的にかかわる力が生まれ、あるいは物事の蔭にかくれた不思議を見いだし探求する態度が生まれるであろう。特に、数学における幾何学は論理の訓練に最適である。また、論理的であろうとすれば、もはや物理のない化学はなく、物理・化学のない生物・地学はないのであるから、高等学校においては、これら4科目を全て必修とすることが望ましい。そして、いずれは現行の4科目を適宜に混合し系統化し直した新しいコースを創出すべきである。(しかし性急にしてはいけない。学問の体系を変えるのは容易ではない)。かっては高等学校における理科の必修が(したがって理科の授業時間が)今よりずっと多かった時期があったことを想起しよう。・・・・
 もちろん、論理的な思考の訓練は理数の科目に限られない。たとえば、国語で作文を課すことも一法である。実際、論理的思考力の訓練にはかくことが重要である。理系大学・大学院における学生の書く能力の低下は今や深刻な問題である。理科教育の一環としての作文指導(論文指導)が望まれる。

高校教育の現状を見ると: 我が娘、高校1年生だ。といいうことで、今、高校生が履修している理系科目の内容に触れる機会がある。なんとか「物理」という教科はあるにはある。これに加えて「理科総合」と称する教科がある。どうも、理系科目の時間を削減するために考えられた教科のようだ(私の感想に過ぎないかも知れないが・・・・)。その中身、「科学的トピック」を切り貼りしたようなもので、とても「論理的思考の訓練の場」といえるしろものではない。「性急に」「現行の4科目を適宜に混合」している。安易に、「学問の体系を変えて」しまっている。学校教育に携わっている専門家、是非、「文化としての科学」、「論理的思考の訓練の場としての科学」ということについて、真剣に考えていただきたいと思うのは私だけか?

『物理のない化学はなく、物理・化学のない生物・地学はない』という観点は、今、最も必要なことと思う。


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