福島第一事故による放射線被曝をどう考えればよいか(その5)

June 24, 2011 – 12:56 pm

前回(その4)では、産総研のデータを参考に、地表面に降下・沈降する放射性核種について考えてみた。その後、「降下物(塵、雨水)」中の放射能測定データが文部科学省により公表されていることを知った。さらに、日本分析センターから、より質の高いデータが公表されていることも知った。このふたつのデータについて、若干の補足情報も交えてメモしておいた。

文部科学省による公表データのなかに「定時降下物のモニタリング」というのがある。このデータは、福島第一事故の発生から1週間経過した3月18日に文部科学省が発表した「福島第一、第二原子力発電所の緊急時における全国的モニタリングの強化について」に基づき行われている調査のひとつだ。その内容は、

定時降下物について、毎日24時間、降水採取装置により採取し、ゲルマニウム半導体核種分析装置を用いて核種分析調査を行い、定期的に可能なかぎり1日1回、自治体に報告を求める。

といったものだ。各県からの報告が毎日PDF形式で掲載されている。

公表されているデータは、毎日午前9時から翌日の同時刻まで24時間に採取された降下物にかかわる測定だ。3月18 日~4月23日の測定についてはI-131、Cs-137の2核種の放射能降下量、4月24日以降はI-131, Cs-134, Cs-137の3核種それぞれについて放射能降下量がまとめられている。

困ったことに、4月23日測定分以前のデータにはCs-134の測定が含まれていない。さらにいうと、産総研の測定データにあるTe-132, I-132などの降下率が含まれていないのは、原子力発電所の事故発生時に、どのようなデータを収集すべきかということについて十分な検討が行われていなかったことを伺わせる。前回(その4)で議論したように、Cs-134の降下量は線量の算出に欠くことができないはずだ。

多少辛口になるが、文部科学省担当者の原発事故発生時の「情報収集能力の低さ、備えのなさ」を感じてしまう。文部科学省傘下には、原子力、放射線などに関係する研究所、事業所が多数あるし、さらには、監督している大学には関連研究を行う部署が多数存在するはずだ。そういう組織に、助言を求めることだって可能なはずだ。情けない、と思うのは私だけか?

地方自治体(県)の測定: 文部科学省にデータを報告する側、各地方自治体(県)のなかには、文部科学省への報告(もしくは元データ)を独自に公表しているものがある。これらには、文部科学省のテーブルで欠けていたCs-134のデータが含まれているものもある。

私が居住する関東の自治体(県)のモニタリング状況についてまとめておいた:

    東京都(東京都健康安全センター)
      都内の環境放射線測定結果

      測定場所: 東京都新宿区百人町
      測定項目:
       大気中の放射線量、
       水道水
       降下物 :

        I-131、Cs-134、Cs-137の3核種
    千葉県(千葉県環境研究センター)
      千葉県における大気環境中の放射線量率の測定結果

      測定場所: 千葉県市原市岩崎西1-8-8
      測定項目:
       大気環境中の放射線量率
       上水(蛇口水)の核種分析結果(各日15時採取)
       降下物(塵、雨水等)の核種分析結果

        I-131, Cs-134, C-137の3核種
    茨城県環境放射線監視センター

      測定場所: ひたちなか市西十三奉行11518番4
      測定項目:
       空間放射線量
       降下物:
         文部科学省発表以外のデータは公表されてない模様
    栃木県(保健環境センター)
      環境放射能の調査結果

      測定場所: 宇都宮市下岡本町2145-13
      測定項目:
       空間放射線量
       降下物
         独自テーブルとして掲載するが、文科省への報告と同一

     

日本分析センターによる測定データ: 上述した文部科学省の公表データが地方自治体の報告をパイルアップしただけのおざなりな印象を受けてしまうが、この文部科学省傘下の財団法人である日本分析センターが公表している測定データは系統的で、実に「科学的」な調査になっている。

余談になるが、この日本分析センターは、ほぼ40年以上前におきたデータ捏造事件をおこした日本分析化学研究所の業務を実質的に引き継いだ財団である。前身組織の捏造事件は残念なものであったが、環境放射能の分析業務を行う組織としては我が国で最も優れた能力を有するものといえる。

今回の福島第一事故における放射能、放射線の測定について、日本分析センター(千葉県稲毛市)において測定したデータならびに分析結果を公表している( http://www.jcac.or.jp/senryoritu_kekka.html )。

公表データのうち、「空間放射線量率と希ガス濃度調査結果[6月10日(金)更新]」の表題としてだされているものは、福島第一事故における放射線被曝線量を考えるうえで参考になる。

とくに、3月15日から31日までの空間線量率とそれに寄与する放射性核種を示している下図(上記調査結果より転載)は興味深い。

この図について、以下のように解説されている(以下、抜粋)

 3月15日と16日に、空間放射線量率がキセノン133の影響で上昇していますが、その濃度は、3月14日から22日から22日の9日間で、1,300 Bq/m3であったことがわかりました。また、3月22日から28日の結果では、クリプトン85もキセノン133もその濃度は、クリプトン85が若干増加していますが、キセノン133は減少しています。・・・・

今後の予定: 以上、我々が取得できる福島第一事故による我々の居住する地域の放射能・放射線にかかわるデータソースについてリストアップしてみた。これらの測定データをなんらかのかたちでデータベース化するなどして、分析作業をしてみたい、と考える。


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