福島第一事故による放射線被曝をどう考えればよいか(その2)
April 22, 2011 – 7:04 pm昨日(4月21日付け)の産経ニュースに「住民の健康を数十年調査へ 広島・長崎モデルに放射線研究機関」なる記事がでていた。本当にこんな計画があるのだろうか?違和感を感じる。
以下、記事のリード部を転載:
東京電力福島第1原発事故で、放射線の専門研究機関でつくる「放射線影響研究機関協議会」が、原発周辺住民の健康状態をモニターする長期疫学調査をスタートさせる方針であることが21日、わかった。事故収束後に調査を始める予定で、広島、長崎での被爆者調査をモデルに数十年にわたり調査を続ける。
協議会は、放射線の健康への影響について情報交換しており、放射線医学総合研究所(放医研、千葉)、広島大学、長崎大学、放射線影響研究所(放影研、広島市)などで構成されている。
放影研によると、今回の福島第1原発事故に関連して、海外から調査の実施要請が、すでにあるという。
広島・長崎の放射線被曝が健康影響評価の基礎になっているのは確かな話だ。ただ、広島・長崎の被曝データは比較的高い放射線量での値で、福島第一周辺の住民のかたがたの浴びた放射線量に対する影響の見積もりは、(閾値なしで)放射線量に比例するとの仮定のもとで行われている。この仮定にたてば、「どんなに低い放射線量でもそれに比例して健康影響(がんの発症)の可能性はある」ことになる。
放射線影響研究所のHPには「放影研のこれまでの調査で明らかになったこと」として以下のように解説されている:
放影研における原爆被爆者の疫学調査から明らかになった放射線の長期的な健康影響は、1シーベルトの放射線被曝により、平均してがんの確率が約1.5倍に増加するということです。このリスクは被曝した放射線の量に比例すると考えられています。がんのリスクは被曝線量に直線的で閾値がないという考え(国際放射線防護委員会などの考え)で計算すると、100ミリシーベルトでは約1.05倍、10ミリシーベルトでは約1.005倍と予想されます。ただし統計学的には、約150ミリシーベルト以下では、がんの頻度における増加は確認されていません。
となっている。
もし、冒頭にあげた産経のニュースが事実だとすれば、この調査、150ミリシーベルト以下においてがんの発生頻度がどうなっているか、あるいは統計的に有意な差がみられないことを、疫学的に確かめようとするものであろう。放射線影響の研究者にとっては「貴重な」データということになる。
原爆被爆者以外のデータが全くないというわけではない。前回の私のブログでも紹介した関連図書にも書かれているように、「ウラン鉱山で働いていた人たちの間からは、労働環境中の放射能の濃度や労働に従事した長さに応じて、肺癌の発生率の高まりが顕著にみられ」たというような事例もこの種のデータとして取り込まれている。
こうした放射線に被曝する環境で働いたひとびとのがんの発症率も、放射線被曝による健康影響を調査するうえで貴重なデータを提供している。
こうしたデータを得るために、我が国でも、「放射線作業従事者」として登録されていた「作業者」を対象に調査が行われているようだ。私自身、一時「放射線作業従事者」に登録されていたことから、その種の調査の対象になるよう協力を要請する「依頼書」が(自宅に)届いたことがある。確か、7、8年前のことだ。そのときは、この依頼を断った記憶がある(依頼元がどこだったかはっきり記憶してない)。
調査を断った(実際は、依頼書をゴミ箱にほうりなげ返信しなかっただけ)理由は、私の健康状態を「誰かが」追跡するのを「不快」に感じたことによる。この種の調査に特有な文面、「調査内容は本調査以外の目的には使用しません」と書かれていても、「はい、そうですか」というわけにはいかない。低線量の影響を見積もるためのデータが貴重だとわかっていても、躊躇したというのが私の本音だ。
広島・長崎の調査をモデル?: 冒頭の記事では、「広島、長崎での被爆者調査をモデルに」するという。この被爆者調査、米国の占領下に原爆障害調査委員会(ABCC)により行われたものだ。ABCCの調査はトルーマン米国大統領令を受けて行なわれたものだ。
たとえ、この調査が今日に至るまで、放射線の健康影響を評価するうえで貴重なデータを提供しているとはいえ、広島・長崎の被爆者にとって「自ら進んで」調査協力したものとは(少なくとも私には)考えられない。占領下の国民としてやむをえないものであったのでは、と想像する。
今回の福島第一の事故による周辺住民の皆さんを対象にこうした調査を行おうとする動きが事実だとすれば、私には理解できない。
産経の記事に誤りがあることを願うばかりだ。