「粉ミルクからセシウム検出」の報道で考えたこと

December 9, 2011 – 11:23 pm

12月6日に、明治の粉ミルクから放射性セシウムが検出されたと報道された。

このニュース、汚染のレベルの大小というより、むしろ、わたしが想像していなかった汚染経路が存在することに気づかされたこと、そして汚染を最初に見つけたのが市民団体であったことの2点で、私にとっては、かなり衝撃的なものであった。

ニュースの内容とこれに関連して私の考えたことをメモしておいた。

毎日JPの報道の一部を以下に転載する:

食品大手の明治(東京都江東区)は6日、粉ミルク「明治ステップ」850グラム缶の一部から1キロあたり最大30・8ベクレルの放射性セシウムを検出したと発表した。・・・
セシウムが検出されたのは、同社埼玉工場(埼玉県春日部市)で3月14~20日に製造した粉ミルクを使ったものの一部。11月28日、「ステップで放射性物質が出たと聞いた」と報道機関から問い合わせがあり、在庫分などを調べたところ、21・5~30・8ベクレル検出された。前後の期間に製造した粉ミルクを使った商品は、いずれも検出限界値(1キロあたり5ベクレル)未満だった。
原料の粉乳は大部分が豪州など外国産で一部は北海道産だが、いずれも東日本大震災以前に製造された。
同社は、粉乳を水などと混ぜ合わせて霧状に噴霧したものを熱風で乾燥させて粉ミルクを作っており、「乾燥の過程で取り込んだ外気に含まれるセシウムが影響した」とみている。
・・・・
◇「驚きない」以前から検出情報
粉ミルクからのセシウム検出について、2歳の長男がいる東京都世田谷区の主婦、中山瑞穂さん(41)は「驚きはない。やっぱりという感じ」。11月中旬には、市民測定所の検査で、この製品からセシウムが検出されたとの情報がフェイスブックを通して母親仲間で流れていたという。中山さんは「乳製品は放射線の影響を受けやすい子どもたちが毎日飲むもの。もっと早く調査をし、情報を開示してほしかった」と不信感を募らせる。

こんな汚染経路が存在したとは!: 粉ミルクの放射性セシウムによる汚染が原料の粉乳などではなく、製造時に必要な乾燥のための熱風として取り込まれた外気に含まれるセシウムであったというのには驚いた。汚染原因がミルクなどの原材料にあったのではなく、製造時の一過程で使われた大気の汚染であったというのである。

製造月日が3月14日~20日で製造したものだという。確かに、3月15日、21日には、関東一円には放射能に汚染された大気が流れ込んでいた。この大気を熱して、乾燥のために用いたわけだから、熱風中の放射性物質が、「霧状に噴霧した粉乳と水」を吸着用の材料としてフィルターがわりに集められたといってもよい状況になっていたわけだ。

この粉ミルク製造当時の空気中の放射性物質は、放射性セシウムというよりテルルとかヨウ素といったものが主であった。従って、製造時点では、この粉ミルクには今回検出されていないセシウム以外の放射性物質、放射性ヨウ素、テルルなどが含まれていたものと考えてもおかしくはない。

製造から9ヶ月経った現時点では、放射性セシウム以外は崩壊しており検出することはできない。しかし、製造直後に出荷され、消費者の手に渡った粉ミルクがあったかどうかは問題だ。もし、3月14日~20日に製造された粉ミルクが出荷されていたとすると、むしろ、こちらのほうが問題になるはずだ。そのあたりについては、私の見た範囲では、報道されてない。どうだったのだろう。結構、大変な問題なのかもしれない。

ともかく、「こんな汚染経路が存在していたのか!」とある種の驚きをもって、このニュースをながめた。環境が広範囲にわたって汚染されるということは、こういうことなのだ、とあらためて思いしらされた。

市民団体の放射能測定: 放射性セシウムの検出を製造メーカー「明治」に知らせたのは、福島・二本松市の住職さんだという(J-CASTニュース「『粉ミルクのセシウム』福島の住職500万円の放射能測定装置で発見」)。この放射能測定装置が、何なのか明らかではないが、民間のボランティア団体の測定により汚染が確認されたという事実は、それなりに評価されるべきものではないか、と思う。

前述した毎日.jpの記事においては、この福島・二本松の話しだけではなく、世田谷区の主婦の話しとして「市民測定所の検査」で11月中旬には、この粉ミルクからセシウムが検出されていたとの情報がフェースブックを通じて流れていた、ということが記されている。

この世田谷の主婦の話しが事実だとすると、市民団体の放射能測定の能力はかなりのレベルに達している、信頼に足る測定が可能な状態になっていると評価してもよいのではないかと思う。1キロあたり最大で30Bqの放射性セシウムを検出しようとすると、それなりの装置と放射能・放射線の知識を必要とするものと考えるからである。

11月中旬にフェースブックでそうした汚染の状況を示唆する情報がながれた段階で、製造メーカー「明治」、さらには政府など行政組織は汚染の状況の確認する努力が必要であったのではないかと考える。

今、必要なこと: 食品メーカーのみならず行政府などは、住民、市民の持つ不安に応えるという従来型の「教育的」安全キャンペーンではなく、住民・市民の自らを守ろうとする活動をもっと信頼し、むしろ、そうした市民活動を支援するなどして放射能汚染の状況に、ともに、立ち向かうことがが必要なのではないかと思う。

福島第一で事故が発生する前まで「リスクコミュニケーション活動」と称するものが盛んに組織されていた。この種のリスクコミュニケーション活動には、本ブログでも紹介した東北大学グループの活動などがある。こうした「リスクコミュニケーション活動」が(ある意味官製?の)教育的「安全キャンペーン」から脱却するには、市民・住民運動のもつ積極的側面を理解し、連帯した活動を行うことこそ必要だと考える。

事故前の原発推進派と反原発派は、フクシマを経験した今にいたっても、反目した状態が続いているように感じてならない。事態を変えるためにも、反目した状態を超える活動が求められるのではないだろうか。


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