福島第一事故による放射線被曝をどう考えればよいか(その1)

April 17, 2011 – 8:38 pm

福島第一原子力発電所の事故により周辺環境が放射能に汚染され、放射線による健康影響をどのように考えればよいのか、ということについて関心が高まっている。30年以上も前になるが、原子力発電所から放出される放射能にたいする被曝評価に係わる仕事に従事していた経験を持っている。こうした経験から、一般の方々に、放射線被曝をどのように捉えるべきか、何か伝えるべきではないか、と事故発生以来、考えてきた。

今回の福島第一の事故で、私の周辺の方々から、事故に伴い報道される放射線の量は「安全ですか、危険ですか?」と質問を受けることが多い。この問いに応えるには、まず、放射線とはどのようなものか、被曝により健康影響はどのように現われるものなのか、について説明することが必要なのではないか、と思う。ところが、このあたりをきちんと説明しようとすると、結構大変というのが実感だ。

放射線被曝とは: この事故を私なりに考えてみようと、私の書棚にある関連書籍の何冊かを読み直しているところだ。そのなかのひとつに、「中島篤之助・安斎育郎著『原子力を考える』(新日本新書・新日本出版社、1983年発行)」がある。この書、米国のTMI事故発生から4年後に書かれたもので、30年も前に出版されたものであるが、基本的な考え方を知るうえで非常に良くまとまっている。

この書で解説されている放射線とは何か、そして放射線被曝をどのように捉えればよいのかについて記述されている「さわり」の部分を以下引用させてもらう:

 ひとくちに放射線といっても、実は多種多様です。ラジオの電波や太陽の光も、広い意味では放射線の仲間です。しかし、原子力発電について私たちが問題にしようとしているのは、そのような種類の放射線ではありません。それは、電離放射線と呼ばれる、障害作用をもった放射線です。私たちの体もおびただしい数の原子から成り立っていますが、電離放射線をあびると原子から電子が引き離される”電離”という現象が起こるのです。原子から引きはがされた電子は、それ自身も弾丸となて飛んでいき、周囲の原子を電離して微細な傷跡を広げていきます。すべての放射線障害の出発点は、ここにあるのです。以下の説明では、電離放射線のことを単に放射線と呼ぶことにします。
 放射線障害といっても、いろいろな種類があります。
 人類最初の核攻撃によって多量の放射線をあびせかけられた広島・長崎の原爆被爆者たちのなかには、髪の毛が抜け落ち、全身に紫色の斑点がでて、はぐきなどからの出血も伴いながら急性の放射線障害で死んでいった人びとがいます。これは、全身に多量の放射線を一度にあびたときに起こる典型的な症状です。
 かなりの量の放射線でも、全身にではなく、局所に被曝した場合には様子が違います。エックス線が1895年末にレントゲン博士によって発見された頃にはしば、しば手などに多量のエックス線をあび、紅斑(毛細血管が膨張して赤くなる)、脱毛、水泡(水ぶくれ)、潰瘍などの障害事例がみられました。また、比較的近年になっても、放射性物質の乱脈な管理が原因となって局所に大量の被曝をうけ、潰瘍になったような例も見られました。
 同じ放射線でも一度にあびるのではなく、長時間にわたってダラダラと連続的にあびた場合や、何回かに分割して被曝した場合には、一般に急性の放射線障害の程度は軽くなり、非常に長期にわたって少しずつあびたような場合には、合計の積算線量が同じでも、急性の障害は何も出ないことになります。
 では、少しぐらいなら放射線をあびつづけても何の障害も出ないのかというと、そうではありません。やっかいなことに、白血病を含む癌や遺伝的障害などは、被曝線量が低い場合でもそれなりの確率で出る可能性があるのです。たとえば、妊娠している母親が出産前に腹部のレントゲン撮影を受けたような場合、胎児が放射線被曝にさらされ、生まれてから小児癌にかかる割合が少し増大することが指摘されてきました。また、ウラン鉱山で働いていた人たちの間からは、労働環境中の放射能の濃度や労働に従事した長さに応じて、肺癌の発生率の高まりが顕著に見られました。被曝量が少ない場合にどのような癌がどれくらい増加するかについては、よくわかっていない面もすくないくないのですが、いずれにしても、低い線量では低い線量なりに癌や遺伝的障害が増加する可能性があるのです。
 また、放射線障害は、被曝する人の性、年齢、健康状態などによっても現われ方が違います。乳癌のような障害は、女性に多く出現します。小児の方が成人より一般に放射線感受性が高く、同じ線量をあびても癌にかかる割合が大人の場合より高い傾向が見られます。放射線にたいする抵抗性は人によって違うようで、遺伝的な要素が関係している可能性もあるし、被曝者の全般的な健康状態や、ほどこさえる医療上の手当ての程度によっても当然違ってきます。
 このように、放射線の障害は、①被曝する放射線の量、②全身被曝か局所被曝か、③一度に被曝するのか連続あるいは分割して被曝するのか、④被曝者の性・年齢などによって現われ方が異なるのです。(pp. 132-135)

放射線被曝による健康影響を考えようとすると、さまざまな側面で吟味しなければならないことが理解されると思う。

私の「被曝体験」: 私自身の「被曝体験」というとおおげさになるが、癌の放射線治療で35グレイ(シーベルトと読み変えてもよい)という量の放射線を照射されたことがある。今回の事故で問題にされているミリシーベルトというレベルの放射線に比較すると大変な線量である。

放射線被曝について解説しているパンフレットなどでは、7シーベルトの放射線量をあびると「99%のひとが死亡する」とされる。致死線量だ。私の放射線治療で照射された線量はこの5倍にもなってしまう。

私が、このような大線量をあびても、なんとか生き延びているのは、①全身ではなくがんの発症部位への局所被曝であること、②一度の被曝ではなく数回に分割して被曝していることによる。このあたりは上記引用した解説文から、理解していただけると思う。

局所的な被曝とはいうものの、癌の部位を標的としたとしても、同時に皮膚にも相当の大線量が照射される。当然のことながら、紅斑、水泡(水ぶくれ)、潰瘍などの障害は現われた。この種の障害は適切な処置を施せば回復可能なものである。

この私の事例から、放射線の被曝といっても、放射線量から単純にその健康影響を割り出すことができないものであることを理解していただけるのではないかと思う。

今回の事故による環境中に放出された放射能による被曝は、私が治療のために受けた放射線量からみると「とるに足らない」低線量である。しかし、うえに引用した解説にも触れられているように、「低い線量では低い線量なりに癌や遺伝的障害が増加する可能性がある」ことが知られている。事実、私の例のように、放射線治療を受けると、その副作用、後遺症として、「癌の発生リスク」が高くなるとの説明を、誰もが、うける。

放射線被曝による健康影響を考えることは、そう単純ではないのである。ましてや、私が大線量をあびたのに生き延びていることから、放射線影響を恐れる必要はないという気はさらさらない。「低い線量は低い線量なりに」異なったかたちで障害の発生を考えねばならない。

放射線被曝と健康影響について、これから少しずつではあるが、私の理解している範囲で本ブログを通じて紹介・議論してみようと思う。

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