空間線量率0.23μSv/h と 実効線量率1mSv/y

February 17, 2018 – 4:09 pm

先月17日のNHKニュースで福島の帰還困難区域における外部被ばく線量に関わり、「空間線量による評価でなく実際の被ばく線量で評価をすべき」という原子力規制員会の更田委員長の発言が取り上げられていた。

規制委員長の発言は、除染の目標として使われている空間線量率0.23μSv/hが、これに対応すべき実効線量率1mSv/yに比べ著しく低いので見直しが必要というもの。

このニュースの中身について、詳細を知りたいと思い、原子力規制委員会とその後の記者会見の公表データを確認するとともに、関連する情報を調べメモしておいた。

原子力規制委員会の議事そして会議後の記者会見について
公表されている原子力規制員会の議事は以下:

このエントリで話題にしている質疑は、上記規制委員会の議事2「帰還困難区域等を対象とした詳細モニタリング結果について」で、事務局からの報告に対しておこなわれた質疑。

質疑のうち注目した部分の抜粋(関連情報を含む)が以下:

〇伴委員:結果の解釈ですけれども、これを見ると、青いところから黄色いところまであるのですが、年間1mSvに対応するのが0.23μSv/hだと言われていますが、推計式そのものが相当過大評価になっていると言われていて、実際の被ばくは大体その15%ぐらいだろうと言われています・・
この色分けでいうと、緑のところぐらいまでは現状においても、そこで暮らしたとしても年間1mSvを超えることはないと考えられる。黄色のところ、こういった全体のところもまだ除染はしていないのですね。だから、これから除染をすれば、更に線量は下がっていくことが見込まれると、そういう理解でよろしいですか。

この発言の「推計式そのものが相当過大評価に」の推計式とは、環境省が発表している資料「追加被ばく線量年間1ミリシーベルトの考え方(平成23年10月10日災害廃棄物安全評価検討会・環境回復検討会 第1回合同検討会)に示されている「推計式」を指しているものと思われる。

次に、「実際の被ばくは大体その15%ぐらいだろうといわれてます」の数値15%のでどころについては特には言及していないが、おそらく福島真(福島県立医科大学)・早野龍五(東京大学)共著の2016年発表の論文(Individual external dose monitoring of all citizens of Date City by passive dosimeter 5 to 51 months after the Fukushima NPP accident(series);1. Comparison of individual dose with ambient dose rate monitored by aircraft survey)で示された数値o.15(15%)を指している。

この発言の「色分けでいうと、緑のところ」というのは、事務局の説明資料のモニタリング結果をまとめた地図上に線量率レベルが色分けされているが、緑の部分は凡例から、地表面から1mの高さの空間線量率が1.0 -1.9(μSv/h)に対応するところを指している。

上掲の伴委員の発言趣旨は、事務局提出のモニタリング結果に示された帰還困難区域の「大部分」が、既に、実効線量率1mSv/yを下回っており帰還の条件を充たしており、除染作業が進めば帰還困難区域全体が帰還可能になる、ということのようだ。

この伴委員の発言、かなり思い切ったものになっているのではと思う。

これに続く更田委員長の質問の部分の関連部を抜粋したものが以下:

〇更田:空間線量率と被ばく線量との関係で、まだ被ばく線量データが蓄積される前に、非常に大きな保守性を置いて、空間線量率0.23μSv/hのところに居住すると、年間の被ばく線量が1mSv/yになると(していたが(筆者加筆))、実証データが積み重なってきて、・・(現在では(筆者加筆))1μSv/hのところに居住しても、年間の被ばく線量は1mSv/y以下になる。・・・確か環境省の規則か何かに、現れてくるのだろうと思いますけれども、これはきちんと改めるべきは改めないと、非常に帰還や復興を阻害すると思います

ひとこどで、この発言を纏めると、

伴委員の指摘する推計式による過大な評価が帰還復興を阻害しているので、これを改める措置をとらねばならない

といったところ。伴委員の主張を一歩進めて「適切な」措置をとりたいとする。因みに、発言のなかで、「どう悪く見積もったって4倍程度の保守性」としているが、この4倍という数値には特には根拠は見当たらない。多分、印象を超えるものではなだろう。

この会議ののちの記者会見で更田委員長の時間をかけた発言はあったが、上述した規制委員会の議論を超えるものは見当たらないので省略。

0.23μSvの根拠となっている環境省の資料について
上述したように、議論のやり玉にあがっているのが環境省の資料(「追加被ばく線量年間1ミリシーベルトの考え方(平成23年10月10日災害廃棄物安全評価検討会・環境回復検討会 第1回合同検討会))。空間線量率0.23μSvの根拠になっているので、当該資料をほぼそのまま以下に引用:

追加被ばく線量は、空間線量率の測定により確認することができ、追加被ばく線量年間1 ミリシーベルトは、一時間当たりの空間線量率(航空機モニタリング等の NaI シンチレー ション式サーベイメータによる)に換算すると、毎時 0.23 マイクロシーベルトにあたる。 その考え方は、以下のとおり。

  1. 事故とは関係なく、自然界の放射線が元々存在し、大地からの放射線は毎時0.04マイクロシーベルト、宇宙からの放射線は毎時0.03マイクロシーベルトである。
     
  2. 追加被ばく線量年間1ミリシーベルトを、一時間当たりに換算すると、毎時0.19マイクロシーベルトと考えられる。(1日のうち屋外に8時間、屋内(遮へい効果(0.4倍)のある木造家屋に16時間滞在するという生活パターンを仮定)
       ※毎時0.19マイクロシーベルト×8時間+0.4×16時間×365日
        = 年間 1ミリシーベルト
       
  3. 航空機モニタリング等のNaIシンチレーション式サーベイメータによる空間線量率の測定では、事故による追加被ばく線量に加え、自然界からの放射線のうち、大地からの放射線分が測定されるため、
        0.19 + 0.04 = 毎時 0.23 マイクロシーベルト
    が、追加被ばく線量年間1ミリシーベルトにあたる。
     

その他関連資料リスト
随分前になるが、このブログでも外部被ばく線量の評価方法について多少議論したことがある(「環境モニタリングにおける空間線量(率)について」など)。ここで気付いたことは、放射線のモニタリングと健康影響の指標になる実効線量との間の関係についての混乱がありそうだ、ということ。上に示した原子力規制委員会の議論においても然りという感じがする。

このあたりの議論を私なりに整理するうえで、今後、このあたりについて考えてみたいと思っている。今後、考えるうえで参考になりそうな関連情報のリスト(上記したもの以外)を以下に並べておいた:

  1. 中西準子 原発事故と放射線のリスク学、日本評論社、2014年 pp.10-20
  2. 被ばく線量評価に関する知見(PDF(OHP))
  3. 福島周辺における線量測定と評価に関する問題点 Ⅵ個人の外部被ばく線量評価の現状と課題
  4. 原子力災害専門家グループ 「場の線量」から「人の線量」へ
  5. 今中哲二 1ミリシーベルトの被曝リスク(PDF OHP)
  6. 古田定昭 除染基準 0.23μSv/hは本当に年間1mSvなのか?
  7. 福島の被曝調査で分かった安全基準の過剰、除染の意義揺らぐ
  8. 減少見えた線量 子どもの外部被ばく、政府推計の3分の1
  9. 土壌に分布した放射性セシウムによる 外部被ばく線量換算係数の計算

今後、参考になりそうな関連資料を逐次追加


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