フランスの放射能漏れ事故-EU諸国の原子力政策にどんな影響?

July 20, 2008 – 3:54 pm

2週間前、フランス南部にあるTricastin原子力発電所でウランを含む低濃度の放射性溶液が廃液タンクから流出する放射能流出事故があった。今度は、やはり南部のRomans-sur-Isèreにある研究炉用核燃料製造工場で地中に埋設した排水パイプからウラン溶液が漏れていたのが見つかった。いずれの放射能漏れ事故も、フランスの世界最大の原子力関連産業アレバの施設で発生したものだ。

日本の原子力関連施設の大部分が海岸立地で、原子力施設からの排水は海に流されるが、フランスの場合、川へ排出される。このことも、この放射能溶液の漏出事故が住民を不安にさせている要因のひとつだろう。事実、Tricastinの事故では、廃液タンクから、周辺の地表や周辺の川に放射性物質が流れ出て、地下水の使用や周辺の川や湖での遊泳、釣りなどが禁止されている。

NHK BS1で流されているフランスF2のニュースでは、今回のふたつの放射能漏れ事故が大きく取り扱かわれている。フランス国内での、この放射能漏れ事故への関心の高さが伺える。フランスF2のニュースの論調は、相次いで起きた放射能漏れ事故の影響は軽微で、住民への健康影響は無いとのアレバの発表を紹介するとともに、施設事業者はもっと透明性を高めるべきだといったものに感じられる。昨日のフランスF2では、20年前のイル・ド・フランスの原子炉建設反対運動の映像を流していた。今回の放射能漏れ事故がフランスの原子力産業全体への不信に発展するおそれも否定できない。

今回の放射能漏洩事故は、事故尺度の最低、レベル1と割り振られるようだ。表現は悪いが、「とるにたりない」軽微な事故・トラブルと考えられる。フランスで1年間に発生する同レベル(レベル1)の事故・トラブルは100件を超すという。今回の放射能漏れ事故も軽微なトラブルといった程度のものと推測される。しかし、最初のTricastin原子力発電所の事故の際の、アレバの発表・報告の遅れ、対応の悪さ、が問題を大きくしている。原子力産業によく見られる、ある種の閉鎖主義、そして対応の悪さは、いづれの国でも、実際より大きな問題を引き起こす。我が国の一連の原子力に係わる騒ぎをみれば明らかだ。

フランスは原子力依存度が世界で最も高い国だ。稼働中の発電用原子炉は59基にものぼっており、電力生産の約80%は原子力によるものだ。さらに最近の地球温暖化問題などによる原子力への「追い風」といった傾向もあり、サルコジ大統領は、セールスマンよろしく世界を駆け巡り、フランスの原子力技術の中国など新興国への輸出を推進しようとしている。フランスにとって、日本と同様、原子力は重要な産業だ。

また、このところ、英国、イタリアといった国が原子力政策を見直す動きも急だ(我がブログの関連記事:「イタリア 原子力政策を転換?」、「地球温暖化問題と英国原子力政策」)。EU諸国全体では、ドイツ、オーストリアなどの原子力反対の態度を明確にしている国があるものの、原子力を見直そうという動きはEU諸国の全体に拡がりつつある。

今回の放射能漏れ、施設で働く事業者、住民への健康影響は軽微とされるものの、原子力産業への不信を増大させるものとなる恐れは大きいのではないか。なにしろ、ヨーロッパ諸国は、20数年前に起きたチェルノブイリ原発事故を経験している。時間は経ったとはいうものの、あのときの記憶はいまだ鮮明だ。今後、原子力に対するEU諸国の動きに注目しなければなるまい。

参考:
Repeated incidents raise questions about French nuclear safety
Another nuclear leak in France

Uranium-bearing liquid leaks at French nuclear site, operator says no damage outside the plant
Bans on swimming, drinking water remain amid mixed messages on French nuclear leak
Sarkozy wants everyone to have nuclear power – French nuclear power
asahi.com :フランスアレバの原子力施設、ウラン漏れ相次ぐ 情報隠しの声


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