岩田昭男著 「Suicaが世界を制覇する」を読んでみた

June 12, 2017 – 7:20 am

iPhone7(日本発売)にSuica(FeliCa方式)が搭載され話題になった。本書は、この動きを、日本独自に発展したSuicaが「ガラパゴス」技術の汚名を返上して世界に打ってでる大きな機会になると主張する。

私自身は電車を利用することは殆どなくSuicaを持っていない。しかし、Suicaに代表されるFelica方式の非接触ICカードがいまや社会インフラの一つとして普及し、さらには、スマホにこのFelicaが搭載され、少額決済が可能になってきたことにはかなりの関心がある。

こうした動きの技術的背景になにがあるのか知りたいということで本書を読んでみることにした。

我が国の社会インフラとして成長したSuica
我が国では、IC乗車券だけでなく、電子マネーとしてSuicaに代表されるFelica方式の非接触ICカードが普及している。コンビニでの少額決済はこうした非接触ICカードをリーダ上にかざすだけで瞬時に行われているようだ。私自身は、時代に取り残された「老人」で、これを使ったことはないが、一般に普及していることは知っているというか、無視することはできない。

これだけ普及しているFelica方式であるが、残念なことに、これは国際標準ではない。非接触ICカードの国際標準はType-A/Bという規格であり、FeliCaはこれからはずれた日本独自の方式なのである。我が国でも、IC乗車券とか電子マネー以外の住基カード(マイナンバーカードも)とか運転免許証に非接触ICチップが埋め込まれているが、これらはType-Bという国際標準の規格になっている。NTTのテレホンカードはType-Aだ。

官製の事業で採用されている国際標準Type-A/Bでなく、日本独自のFelicaが普及した背景には、我が国が鉄道大国であるという事実がある。JR東日本が、IC乗車券としてFelicaを採用したことを端緒として、このFelica方式が我が国の社会インフラとして成長したのである。

JR東日本のIC乗車券の開発と導入
JR東日本がIC乗車券としてFelicaを採用したのには理由がある。首都圏の鉄道では、朝夕のピーク時に1分間に60人もの利用客が通過する。これに対応するためには、IC乗車券は高速性、安定性、信頼性を満たすことが必須であった。

この条件として以下の技術仕様が纏められ、国際入札が行われた(P.41)。

  ・サイバネ規格(電波インタフェース)を満たす非接触ICカードであること
  ・通信速度=211.875Kb/sec
  ・通信最大距離
    カード1枚時 100ミリメートル以上200ミリメートル以下
    カード2枚時 60ミリメートル以上200ミリメートル以下
    カード3枚時 50ミリメートル以上200ミリメートル以下

入札の結果、ソニーのICカード Felica のみがこの技術仕様を満たすことができ、JR東日本のIC乗車券として採用されることになった。JR東日本がこのFelicaを採用したことにより、我が国で普及している非接触ICカードは国際標準から「逸脱」した道を歩むことになった。

国債入札当時、既に非接触ICカードの国際規格ISO/IEC 14443としてTypeA(密着型)とTypeB(近接型)が存在していたが、JR東日本が採用したソニーのFelica(近傍型:~70mm)は国際規格から除外されていた。因みに、当時の国際規格TypeA/Bの通信速度は106Kb/secでFelicaの1/2しかなかった。また、Felicaは本書の著者によればセキュリティ面で優れた機能を持つなどIC乗車券としての機能を超えた使用、例えば「電子マネー」としての使用にも適用可能であったという。

SUICA/交通系ICカードの普及と「電子マネー」としての使用
Suicaは2001年11月に発売が開始されたが、「発売後19日目で発行枚数が100万枚を突破、2ヶ月後には200万枚を超えた。1年後には500万枚に達し、JR東日本が当面の目標としていた600万枚を2年後の2003年11月にはあっさり超えて、750万枚となる(p.46)」

その後、Suicaだけでなく、我が国の鉄道各社も夫々独自に、Felicaの非接触ICカードであるIC乗車券を発行し、これらのIC乗車券が相互に利用可能な条件が整った。Felicaの非接触ICカードは全国民的なスケールで普及した。

日本中誰もが利用する非接触ICカードは「電子マネー」としての役割を持っており、全国のコンビニにおいて少額決済の手段として一般的になってきた。本書によれば、JR東日本による「エキナカ」事業へのSuicaの利用・普及が、「電子マネー」としての利用拡大に大きな役割をしたようだ。

Suicaの「電子マネー」としての普及は、Felicaの非接触ICカードが全国津々浦々どこでも使用可能な「電子マネー」として成長したのに大きく寄与している。

Apple/iPhoneへのFelicaの搭載
我が国はApple/iPhoneにとって大きな市場である。これに日本で普及しているFeliCaを搭載するというのは当然の流れだ。Felicaを搭載することにより、普及している非接触ICカードに代えてiPhoneを用いることが可能になる。

iPhone7にFelicaが搭載される以前に、アンドロイド系のスマホにはすでにFelicaが搭載されていた。Appleは日本で発売するiPhoneに日本独自のFelicaを搭載せざるを得ない条件が整っていた、といえる。

Suicaが世界を制覇する?
本書のタイトルは「Suicaが世界を制覇する」となっている。タイトルのように、SuicaのベースであるFelicaが世界的に普及することは可能なのか?

Suicaの応援団を自称する本書の著者、岩田昭男さんの願いは、そこにあるようだ。

スマホ+非接触ICによりクレジットカードを中心とする決済が、スマホ+非接触Icに代わってゆくことは十分考えられる。Apple-Payの普及も考えられなくはないとは思う。

しかし、鉄道の利用が日本ほどでない国々にとって、非接触ICの規格をType-A/BからFelicaに変える必要がどれだけあるのか?私は多少疑問だ。Felicaがなくても、Apple-PayとかAndroid-Payは成立するのではないのか、と思うのだ。

それはそれとして、本書、それなりに面白く読ませてもらったというのが、私の読後感。
  


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