公的年金に対する源泉徴収税額について調べてみた

February 12, 2009 – 3:00 pm

昨年の11月、「公的年金からの源泉徴収税額:一律7.5%!?」なるエントリーを書いた。そんなに多くもない年金から、手続きをしないと、しっかり7.5%もの税金が源泉徴収されるという話だ。これは大変だということで、所定の手続きをしたところ提出した「扶養親族等申告書」に基づき、今年の源泉徴収税額の通知がきた。いまひとつ徴収税額の算出根拠が分からないので所得税法の関連部分を調べてみた。

源泉徴収に関係する所得税法: 所得税法を覗いてみると年金だけでなくさまざまな所得に対する源泉徴収についての記述がある。このうち、公的年金に対する源泉徴収の法的な根拠は、「所得税法第203条」にある。ごたぶんに漏れず法律の条文、かなり読みにくい。私が理解した範囲で、源泉徴収税額がどのように算出されるのかまとめておこう。

公的年金の受給額がいくらあると源泉徴収される?: 年金受給者は必ず源泉徴収されるのかというとそうでもない。ある一定以上の年金を受給する場合にかぎり源泉徴収される。その条件は:

年間108万円以上(65歳未満)

年間158万円以上(65歳以上)

ということになっている。二箇所以上から公的年金を受給する、私の例でいえば社会保険庁と厚生年金基金の二箇所から受給する場合、合算ではなく、その夫々の受給額により個別に判定されるようだ。65歳以上の年金受給者については異なる額が適用されそうだが、法令のなかに該当する部分を見つけられなかったので確かそうな部分のみ記述。(第319条の9で178万円という金額が示されているが、平成17年の改正で158万円となっているようだ。上記の数字は、これを記載しておいた)。上記の額は所得税法203条の6に対する政令(所得税法施行令第319条の12の第2号)に記載されているものだ。

この条件を外れる場合、例の「扶養親族等申告書」の提出をしようとしまいと源泉徴収されることなく「満額」受け取ることができる。

源泉徴収税はどう算出される?: 公的年金受給額が上記条件の範囲になると、源泉徴収されることになる。源泉徴収税額は、年金受給額から一定の控除額を差し引いた残額に対し一定の税率を掛けたものになる。算出式というかたちで書くと:

源泉徴収税額 = 税率 ×(年金受給額 - 控除額)

(但し、上記の源泉徴収税額の算出式では、介護保険料は考慮していない。)

税率は?: 上記の源泉徴収税額算出式の「税率」は、「扶養親族等申告書」を提出したかどうかで異なる。

「扶養親族等申告書」を提出したもの:   5%
「扶養親族等申告書」を提出しないもの: 10%

控除額、そして源泉徴収税額は?: では、上記した算出式の控除額はどのように定められているのか?これが実に複雑だ。年金の種類と「扶養親族等申告書」の提出の有無により「控除額」の算出法は3つに区分されている。「控除額」の算出は実に複雑になっている。

「扶養親族等申告書」を提出していないものについては、控除額は年金額の25%と定められている。この控除額(年金受給額の25%)と上記した税率(10%)とから、源泉徴収税額は年金受給額の7.5%ということになる。これが、前回のブログエントリー「公的年金からの源泉徴収税額:一律7.5%!?」で書いたものに対応するわけだ。

「厚生年金基金」などに対する控除額: 社会保険庁から受給する老齢厚生年金あるいは基礎年金などと厚生年金基金などから受給する年金とでは控除額の算出方法が異なる。このあたりかなり複雑になっている。正確を期すため、所得税法の関連部分を引用しながら見てゆくことにしよう。

控除額の算出についてみる前に、控除額算出にかかわり年金種類がどのように区別されているかをみてみよう。所得税法第203条の3では、

「・・・・次の各号に掲げる公的年金等の区分に応じて当該各号に定める金額を控除・・・・」となっており、次のように3つに区分されている。

  1. ・・・(扶養親族等申告書を提出した)・・・公的年金等(次号に掲げるものを除く。)
  2. 厚生年金保険法第130条第1項(厚生年金基金の業務等)に規定する老齢年金給付、国家公務員共済組合法第72条台1項第1号(長期給付の種類等)に掲げる退職共済年金その他の政令で定める公的年金等の支払を受ける・・・扶養親族申告書を提出したもの・・・・
  3. 前2号に掲げる公的年金等以外の公的年金等

となっている。まず、3号の「前2号に掲げる公的年金等以外の公的年金等」という表現は分かりにくい表現だが、一般的には「扶養親族等申告書」を提出していないものはすべてここに含まれると理解してよいだろう。

次に、第2号に含まれる公的年金には厚生年金基金と公務員の共済年金などが含まれるという理解でよい。この区分に含まれる公的年金種類の詳細は政令(所得税法施行令)に細かく規定されている。

そして第1号は、第2号に含まれない公的年金、即ち我々が社会保険庁経由で受け取る老齢厚生年金そして基礎年金が含まれると理解してよい。

所得税法第203条1号の公的年金に対する控除額: 控除額は年金を月割りにしてものに対して規定されとり、これは以下のようにまとめることができる。

  • (基礎控除)  年金受給月額の25%か9万円どちらか大きい額
  • (配偶者控除) 3万2千5百円(配偶者が老人控除対象の場合4万円)
  • (扶養親族控除)3万2千5百円(特定扶養親族、老人扶養親族については夫々5万2千5百円、4万円)

所得税法第203条2号の公的年金に対する控除額: 上記1号の「控除額に対し政令(所得税法施行令)に定める金額を控除した額」となっている。政令(所得税法施行令(第319条の6))で定められた額をみると、おおまかにいって、

  •  厚生年金基金については7万2千5百円
  •  各種共済年金、国民年金基金などについては4万7千5百円

2号に区分される年金についてこのような「控除額の控除」なる複雑な手続きになっているのは、2号に該当する年金受給者が1号の年金を併給するのが一般的との観点から2重に控除されることを避けるために設けられたものと考えられる。

源泉徴収税額の計算例: 以上かなり複雑なしくみになっているので、理解を深めるために、厚生年金基金を受給する場合の源泉徴収税額の計算例を示すことにしよう。

年齢が60歳、厚生年金基金から受け取る年金額が200万円、配偶者あり、扶養家族(子供1人)で「扶養親族等申告書」を提出しているというケースについて具体的な源泉徴収額をみる:

  1.  年齢が65歳未満であり年金受給額が年額で108万円を超えることから、厚生年金基金からの年金は源泉徴収の対象となる。
  2. 税率は「扶養親族等申告書」を提出しているから5%
  3.  年金受給額を月割りに直すと、166,666円になるから
    • (基礎控除額) 月額の25%(16,666 × 0.25 = 41,665(円))が9万円以下なので9万円
    • (配偶者控除額) 32,500円
    • (扶養親族控除額)  32,500 円

    で、1号で規定されている控除額はトータルで155,000円

  4. 年金基金が2号であることから(3)で求めた控除額から72,500円を差し引き、最終的な控除額は82,500円
  5. 税率が5%であるから、月額166,666円(年額200万円相当)に対する源泉徴収額は、
    • (166,666-82,500) × 0.05 = 4,208 (円)

となる。この場合、「扶養親族等申告書」を提出していないと、年金受給額の7.5%となるから12,499円となり、提出した場合に比べ3倍もの税が源泉徴収されることになる。

ながながと書いてしまった。印象を一言で言えば、源泉徴収の仕組み、本当に複雑で分かりにくい。確定申告の段階で、ほぼ全額が還付されるひとが多いものと想像する。こうした人、確定申告をしないと、そのまま国庫に差し上げることになってしまう。と考えると、この源泉徴収制度、とんでもないものだ、と思ってしまう。


  1. 4 Responses to “公的年金に対する源泉徴収税額について調べてみた”

  2. 公的年金の源泉徴収表蘭の不可思議な数字に疑問がわき当ブログに行き当たりました.よく調べていただきました.よく解りました.

    By fのトマト on Feb 20, 2015

  1. 3 Trackback(s)

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