福島第一事故による放射線被曝をどう考えればよいか(その6)

July 17, 2011 – 5:34 pm

ここ数日、福島産肉牛の放射性Csによる汚染が「話題」になっている。なかでも、14日には、福島第一原発から60Km以上離れた白河市の稲作農家が販売し、牛のえさとして使用された稲わらが「基準値」をはるかに超えて汚染されていた事実が明らかになり大変な騒ぎになっている。
 現在、地方自治体などが行っている空間放射線量率のモニタリングとのかかわりで今回の「事件」の問題について考えてみた。


7月14日付けのasahi.comの関連記事「稲わらから高濃度セシウム 肉牛42頭出荷 福島・淺川」ではこのあたり次のように報じている(以下、抜粋):

 福島県は14日、同県淺川町の畜産農家の稲わらから基準を超える放射性セシウムを検出した、と発表した。
 ・・・
 県によると、わらから検出されたセシウムは最大で基準値(1キロあたり300ベクレル)の約73倍にあたる2万2045ベクレルだった。
 わらは同県白河市の稲作農家が東京電力福島第一原発事故後の3月15日~20日に田から取り込み、淺川町の畜産農家など4カ所に販売。畜産農家は4月上旬からえさとして与えていた。

この騒ぎ、何が問題なのか?: 今回の「事件」であきらかになったことは、福島県内に限らず原発から遠くはなれた地域でも、かなりのレベルで家畜のえさなどが放射能汚染されているということである。

事故の発生以来、福島を中心として東日本が「放射能まみれ」になっているという状態にありながら、国、自治体などにより食品の汚染をさけるために適切な措置が講じられてなかったことがあからさまになった、といえる。

今回の淺川の畜産農家の「事件」については、畜産農家自身が「心配になり」、福島県に対し詳細な調査を願いでたことにより汚染の事実が発覚した。

白河市の空間線量率から稲わらの汚染を推定してみよう: 果たして、稲わらが取り込まれた白河市において、稲わらが、今回のように「高濃度」のCsで汚染されていたというのは驚きに値することなのであろうか? 試みに、公表されている白河市の放射線レベル(空間線量)をもとに地表面の汚染の程度を見積もってみることにした。

 福島県白河市における現在の放射線レベル(空間線量)をみると、今日(7月17日現在)約0.5 μSv/hrとなっている。 また、福島第一事故発生直後(3月11日18時)の空間線量率は、0.05 μSv/hrであることから、事故により放出された放射性物質寄与の空間線量は0.45μSv/hrになる。(NHK 各地の放射線量 白河市

前回(その4)に触れたように、事故発生後4ヶ月経過した現在、空間線量率の値は地表面に沈着しているCs-134ならびにCs-137から放出されているガンマ線によると考えてよい。

その4」に転載したIAEA-TecDoc-1162の「単位面積・単位放射能あたりの空間線量(率)への変換係数」によれば、Cs-134、Cs-137sの地表面濃度がそれぞれ1kBq/m2の場合、Cs-134 寄与の空間線量は 5.4E-03 (μSv/hr)、Cs-137寄与分は2.1E-03(μSv/hr)ある。

今回の福島第一から放出されたCs-134とCs-137の比は、ほぼ1:1となっていることを考慮すると、空間線量1μSv/hr の場合、地表面に沈着している放射能すなわち積算した放射能降下量を算出することができる。これを求めると、現時点で空間線量が1μSv/hrに対応するCs-137の積算降下量は1.9E+02 kBq/m2となる。これから、現在の白河市の空間線量が0.45μSv/hr であることを考慮すると、Cs-137の地表面濃度、即ち積算降下量は 86 kBq/m2 ということになる。

稲わらの処理形態と収量: Cs-137の積算降下量から、稲わら 1Kg あたりのCs-137濃度を算出するには、単位面積あたりの稲わらの収量、刈り取り後の稲わらの処理方法を知る必要がある。

Web上で稲わらの処理形態について検索してみると、「国産稲わら確保の先進的取り組み事例について」なるページをみつけた。このページ、(社)福島県畜産振興協会より平成14年3月に刊行された報告書であり、文面から察すると、今回の稲わらの供給形態そのものを報告している文書として考えてもよさそうだ。

この福島県畜産振興協会の報告書の記述によると、稲わらの収集供給体系は、

  • コンバインによる刈り取り(30cm前後に切断後バラして放出)
  • ほ場内で乾燥
  • ロールベーラにより収集・梱包

とされている。

また、稲わらの単位収量は500kg/10a とされている。

福島第一事故発生時の稲わらの状況: 福島県白河市における福島第一事故発生後の放射線量率の変化をみると、3月15日に8μSv/hr に上昇しピークを形成したのち、ほぼ一様に減少している。この空間線量の変化をみるかぎり、3月15日に大量の放射能が降下し地表面に沈着した放射能が、その後の空間線量率の「もと」になってよいものと理解される。

冒頭にあげたasahi.comの記事によれば、「わらは同県白河市の稲作農家が東京電力福島第一原発事故後の3月15日~20日に田から取り込」んだとされているので、現在(7月半ば)の空間線量の原因となっている地表面に沈着している放射性Csの量は、白河地域で3月15日に降下したCsの量と一致したものと考えてよい。

ロールベーラによる取り込み寸前に、ほ場(田んぼ)にそのまま乾燥のため置かれていたわらのうえに、福島第一から飛来した放射能が降下し、わらを汚染させたものと考えることができる。

参考のために、「国産稲わら確保の先進的取り組み事例について」に添付されている乾燥時の稲わらの状態、取り込み時の状態を示す写真を以下に転載しておく:


稲わらのCs-137濃度を算出
: 上述した「稲わらの処理形態と収量」を考慮して、白河市の空間線量率 0.45 μSv/hrから稲わらの放射能濃度を算出すると、その上限は、ほ場に均一に稲わらが分布した状態で乾燥されているときと想定できる(降下したCs-137は全量稲わらに沈着したものと考える)。このとき、収量が500Kg/10アールを考慮すると、稲わら1kg あたりのCs-137の濃度は17万2千ベクレルと求めることができる。

稲わら乾燥時の稲わらのほ場での分布状況は一様ではないし稲わらが一定程度重なりを持つかたちになっていること、降下したCs-137が全量稲わらに留まったとは考えにくい。そうだとしても、上記算出値の濃度の10分の1程度のCs-137濃度、稲わら1kgあたり1万7千ベクレル、程度の濃度にあってもなんら不思議ではない。報道されているCs-137濃度である2万ベクレル程度になっているのは、空間線量率、そして稲わらの処理方式などを考慮すると十分理解できる濃度である。

まとめ: 福島県白河市の空間線量率から福島第一事故以降にとりこまれた稲わらの汚染の程度について見積もってみた。計算の結果、一般に公開されている空間線量率の値から、稲わらの汚染状況について十分に説明できることが理解できた。

 今回問題になった白河市だけでなく、関東一円で空間線量が一定程度以上のレベルになっている地域では、こうした汚染が発生している可能性について精査する必要があるのではないか、と思う。空間線量のデータは、現在の地表面の汚染を表現するものなのである。

 私の見積もり、そんなには間違ってないと思うのだが、なにぶん短時間でやった「試みの計算」である。そのあたりを十分理解しながら活用されることを望む。


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